ボブという名の猫 幸せのハイタッチ
映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:A Street Cat Named Bob 
製作国:イギリス 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年8月26日 
監督:ロジャー・スポティスウッド 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★

あらすじ

ロンドンでプロのミュージシャンを目指すジェームズは、夢を果たせず、薬物に依存し、家族にも見放され、ホームレスとしてどん底の生活を送っていた。そんな彼のもとに迷い込んできた一匹の野良猫。その猫にボブと名前を付けて、いつも一緒に行動をともにするようになる。

ネタバレなし感想

ネコも俳優

動物が活躍する映画では、CGでない限り「動物」が役者として素晴らしい演技を披露してくれます。イヌ映画なら犬が、ネコ映画なら猫が…。僕のワンダフル・ライフに出演していた多種多様な犬たちは実力をいかんなく発揮する名俳優でしたし、キアヌではまさしく子役といえる子猫が愛嬌全開で頑張ってました。

人間の俳優だけでなく彼ら動物たちも、しっかり「俳優」として評価されるべきだと思うのですが、なかなか役者という形でクローズアップされることはありません。

そうしたなか本作『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』に出演したネコは、珍しく「俳優」扱いされていました。

この映画はタイトルのとおり「ボブ」という名前のネコの実話なのですが、出演しているネコも本人、いや“本猫”なのです。公式サイトにも人間の俳優と並んでちゃんとプロフィールが書かれているのが、気が利いてます。

ボブ
年齢は推定11歳。「ツイン・ピークス」のキラー・ボブから名づけられた。ジェームズ・ボーエンと出会ったのは07年。当時、ケガをしていたボブはジェームズに手当をされて、元気になる。その時、心の傷を負っていたジェームズが家族と支えを必要としていることに気づき、「ずっとそばにいよう」と決意。以来、片時も離れていない。ボブはジェームズに責任を持たせるように仕向け、ジェームズは薬物依存症から立ち直る。12年、ジェームズが書いた『ボブという名のストリート・キャット』が発売されると、同作は世界的ベストセラーになり、二人は一躍有名人に。さらにボブは自分が主人公の本作で自身の役を演じ、映画デビューを果たす。乳製品に目がない彼のギャラは、WhiskasのキャットミルクとKRAFTのチーズ。
自分で“自分”役をするなんて難易度が高そうですけど、ボブは見事に熱演(!?)。プロ顔負けの堂々たる立ち振る舞いを見せてくれます。きっと台本を読みこんだのでしょうね…。

ちなみに全シーンをこのボブが演じているわけではなく、ほかにもネコが出演しているそうなので、せっかくならそのネコたちも記載してほしかったですね。

ネコの演技にぜひ注目して観てください(あ、もちろん人間も…)。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

御年72歳の名監督

ボブ、良かったですね。あのけだるそうなハイタッチがたまらない。

まあ、そんなネコもいいですけど、本作で注目したいことはもうひとつ。それは監督です。

本作の監督は御年72歳の“ロジャー・スポティスウッド”なんですね。1997年にはあの『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』の監督をつとめるなど活躍が目立っていましたが、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『シックス・デイ』(2000年)以降、最近見ないなと思ったら、それもそのはず日本では劇場未公開な作品が続いていました。

一応、『Shake Hands with the Devil』など高く評価された映画もあったらしいのですけど、私は観ていないのでさっぱり…。

そして本作。少なくとも日本では久々に“ロジャー・スポティスウッド”の名前を聞ける作品になりました。

手がけたのはネコ映画というのは意外な感じもしますが、調べてみると“ロジャー・スポティスウッド”監督は、1989年に『ターナー&フーチ すてきな相棒』(トム・ハンクス演じる警察官と下品な犬のコメディ)、2014年に『氷の上のふたり』(少年とシロクマの子どもの冒険物語)と、動物映画の経験はあって、本作で3度目の動物映画なのでした。

本作の評価も上々なので、もしかしたら今後、動物映画監督として『僕のワンダフル・ライフ』のラッセ・ハルストレム監督みたいに新たな地位を確立するのかな?

ボブという名の猫 幸せのハイタッチ

実は残酷なドラマ

ただ本作は確かにネコ映画なのですが、観る前に予想していた映画の雰囲気とは結構違って驚きました。

動物映画にありがちな、ネコと出会って山あり谷ありのドラマチックなストーリーが展開される、ウェットな演出たっぷりの作品…と思ったらそうではなくて。普通に「ドラッグに代表される底辺生活から抜け出そうとする若者の“人生這い上がり”映画」でしたね。

そのためか、冒頭の生ごみをあさったり、父の娘に「ジャンキー」連呼される主人公ジェームズの惨めな姿や、友人でドラッグに溺れるバズの不幸など、割と痛々しい底辺生活描写にも遠慮がありません。だからといって子供に見せられないというほどではないのですけど、実際のドラマで起こっていることはかなりキツイ内容です。

「ネコ、可愛い~」なんて軽々しく言ってられない感じ。でも、ボブと出会ってからのジェームズはその「ネコ、可愛い~」なんて言う人のおかげで人気を集める…これって考えようによっては凄い皮肉な実話ですよね。冒頭で映し出される、ネコと出会っていないジェームズを見る通行人の目、完全に犯罪者か精神異常者を見る目でしたよ。それがネコを肩に乗せているだけで、あの“手のひら返し”。大衆が社会の底辺に生きる人に対していかに自分勝手な目線を向けているかを描いているとも受け取れます。

後半に登場する「ネコ買いとりたい」と言ってくる親子。おそらく上流・中流階級層であろう人たちの、無意識の残酷さが怖ろしいです。まさに金の力で底辺階級を踏みつぶすイギリス階級社会の暴力性そのもの。

雑誌の販売のときに縄張りをめぐって同業者とぶつかり合うのも、底辺階級の相互補助の精神がないダメな部分が描かれていてこれまた印象的です。

でもそんなジェームズが最後はドラッグと真剣に向き合い、自伝を出版することで自分の本当の姿を世間に見せつける。偶然なのかT2 トレインスポッティングとすごく重なる展開です。あの本を読む人はジェームズの惨めな部分も含めて支持してくれるわけですから、「ネコ、可愛い~」の上辺だけで群れていた人たちとは違うでしょう。

ボブ、何もしてないじゃないかと思うかもしれないですが、あのボブはこの映画の世界で唯一の「階級を気にせず行動できる存在」ともいえます。だからイギリスの理想の未来を映している…たとえ、肩に乗っているだけでも。そう考えると本作はただのネコを愛でるだけのネコ映画じゃないのです。

動物映画の皮をかぶった、イギリスの階級社会をシニカルにきりとった一作でした。さすが“ロジャー・スポティスウッド”監督、ただものじゃないです。

『T2 トレインスポッティング』のあいつらもボブがいれば違ったかもしれない。いや、あいつらはそれでもダメかな…。

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