バードショット
Netflix映画『バードショット』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Birdshot 
製作国:フィリピン 
製作年:2018年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:ミカイル・レッド 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

フィリピンの田舎で暮らす少女マヤは、母親を亡くし、今では土地の管理人として働く父親のディエゴとともに二人で狩猟をするなど自給自足の生活をしていた。しかし、保護区域に立ち入ってしまったことで、絶滅危惧種のフィリピンワシを誤って撃ち殺してしまう。一方、ある事件を捜査していた警察のドミンゴは、しだいにこの地域の闇に近づいていく...。

ネタバレなし感想

警察汚職モノ in フィリピンの田舎

「国鳥」というものが存在します。その国を代表する鳥類を政府や学術団体が選定するもので、ハッキリ言って深い意味も価値もない、ほぼ人間の自己満足なのですが、その国の個性が表れて面白いものです。ちなみに日本の国鳥は、桃太郎でも仲間になる「キジ」です。

この国鳥という存在が物語上の鍵になってくる映画があります。それが本作『バードショット』

舞台となっている国は、日本人の観光地として人気の東南アジアに位置するフィリピンで、製作した国もフィリピン。第90回米アカデミー賞の外国語映画賞にてフィリピン代表でエントリーした作品でもあります。

この映画にも重要な存在として登場するフィリピンの国鳥が「フィリピンワシ」。フィリピンにしか生息していない固有種で、生息地である森林の破壊や乱獲によって減少した今の個体数は250~750羽程度と言われており、いつ絶滅してもおかしくない状況です。

そんな絶滅危惧種の鳥が出てくる映画と聞くと、自然保護を謳う真面目な作品なのかなと思うかもしれませんが、実際は全然違って、簡単に言ってしまえば「警察汚職モノ」です。フィリピン映画をたくさん鑑賞している方ではないのですけど、首都マニラを舞台にしたスラム街を含む汚れた現実社会を描く作品はいくつか観てきたので、別にフィリピンの警察汚職モノに驚きはありません。『メトロマニラ 世界で最も危険な街』とか良作でしたね。

しかし、フィリピンの“田舎”を舞台にした警察汚職モノというのは初めて観たかもしれない。だいたい都市部が汚職にまみれていたら、地方も汚職しているのは当然なのですけど。本作もこれがまた非常にいや~な空気が漂う作品になっていて、田舎特有の閉塞感が絶望的。

警察汚職モノとフィリピンワシがどう関係するの?と思うでしょうが、本作では上手く構成していくのです。この典型的な警察汚職モノに、フィリピンワシとそれに関わる少女のエピソードが混ぜ合わさることで、寓話的な物語にも解釈できる面白さを備えています。

気になる人はぜひ鑑賞してみてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

2つの登場人物の視点

本作は大まかなジャンルで言ってしまえば前述したとおり、警察汚職モノです。フィリピンで警官の汚職があるというのは想像するのは難しくないです。また、本作の物語の重要なパーツである、親子がフィリピンワシを撃ってしまって逮捕される事件、何十人もの人間が失踪して大量に死体が埋まっているのが発見される事件…“ミカイル・レッド”監督いわくこれらも実際にフィリピンであったことだそうで、本作のインスピレーションの元になったようです。

一方、実録系のような雰囲気を期待すると、少々肩透かしを食らうと思います。私はフィリピンに詳しくないので、本作がどこまでリアルかはわからないのですが、単純にサスペンスとして弱い部分は多々あった気がします。後半の留置所からの脱走シーンなどもっと面白くできそうで、意外にあっさり済まされる場面も散見されました。いわゆるクライム・サスペンスとしてはイマイチかもしれません。

しかし、本作の重きはリアルなクライム・サスペンスではなく、寓話的な物語として解釈することにあるのでしょう。

そのカギを握るのが本作の物語の主軸となる2つの登場人物の視点です。

ひとつは、ディエゴとマヤという父娘の視点。映画は冒頭、ディエゴがマヤに猟銃の撃ち方を実演で教えているシーンから始まります。ディエゴは妻を亡くし、自分もそう長くはないと悟っているのか、マヤに独りで生き抜く力を教示しようと努めています。対して、マヤはその気はなく、早くこんな田舎から出たいと本心で思っているようですが、その足がかりになるようなものは何もありません。

そして、もうひとつの視点となるのが、メンドーサとドミンゴという警官のコンビ。メンドーサはベテラン警官であり、それはつまり汚職や腐敗にどっぷり染まった存在ということ。捜査も暴力的手段に平気でうってでてなりふり構いません。対して、ドミンゴはいかにも新米という感じで、正義感に燃えてはいるものの、メンドーサの横暴な捜査についていけず、最初は困惑しています。

この2組は関係性が同じで、ディエゴとメンドーサが汚れた大人の側におり、それに反比例するかのようにマヤとドミンゴは無垢な存在として立っています。しかし、2組が辿る運命はまるで違っていて、ドミンゴは悪に染まっていくのに対して、マヤは最後に父を殺したドミンゴに銃を撃つことなく立ち去ります。

これら登場人物の相関がとてもわかりやすいので、おそらく観客の多くはある程度予定調和的にこの映画の結末を予測できたと思います。しかし、これだけだと単純なクライム・サスペンスになるところを、寓話として再構築しているのがこの映画の魅力。それに寄与しているのが、第3の視点となるフィリピンワシです。

バードショット

絶滅の危機に瀕する“良心”

フィリピンワシは劇中でも説明されていたように絶滅危惧種で非常に個体数が少ない存在です。本作では、この消えゆくフィリピンワシと、作中の権力による不正と腐敗によって消えゆく人の“良心”が重なるような構図になっています

また、フィリピンワシが地域に蔓延る“悪”的な行為を告発しているような解釈もできます。フィリピンワシの鳴き声に導かれるように穴の開いた柵を越えて聖域に迷い込んだマヤ。トンネルなどベタな異世界感を演出する場面が挿入されるあたりは、ちょっとジブリ的ですよね。そして、最終的にマヤが地面に埋まった大量の死体を発見することにつながるわけですが、その上空には汚れた現実を知らせるように空を舞うフィリピンワシがいました。思えば最初からマヤがフィリピンワシを撃ったこと自体、悪を暴かせるために身を犠牲にしたようにも受け取れます

フィリピンワシというのは英名で「monkey-eating eagle」と呼ばれていて、猿を食べると考えられてきました。でも、実際は猿を好き好んで捕食することはないそうです。このように野生生物は往々にして人間の誤解や偏見、理不尽な搾取によって被害を受ける側になりがちですが、本作では“神”のようなまさしく上空からの俯瞰のようにこの地域の出来事を見ている存在になっているのがこのワシです。

また、ワシだけでなく、物語全体が土着信仰をベースにしているのも印象的でした。マヤの祖母が話すように、霊のエピソードなどが混ざり合って、常にマヤが神的な存在からの試練を与えられているような感じに思えてきます。夜中にラジオがつかないとか、畑で謎の人影がぽつんと立っているシーンとかは、もはやジャパニーズ・ホラー的でしたね。

ただ、本作のやるせないのは、結局、無垢でいる道を選び、真実を知ったマヤですが、その事態にどれだけ多くの人が関わっているかと思うとゾッとすると同時に、結局、独りではどうすることもできないと悟ることにもなるわけで…。絶滅という宿命からは逃れらないと思うと、寓話としてはなかなかのバッドエンドじゃないですか。

監督と俳優の才能が光る、素晴らしいフィリピン映画でした。

以下は東京国際映画祭での監督&俳優を招いてのQ&Aの様子の動画です。マヤを演じた“メアリー・ジョイ・アポストル”とドミンゴを演じた“アーノルド・レイエス”、今後世界で活躍していってほしいですね。


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↑『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル 』…こちらも野鳥と狩猟が鍵になる、大人と子どもの物語。でもコメディ。
(C) Birdshot