バリー・シール アメリカをはめた男
映画『バリー・シール アメリカをはめた男』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:American Made 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本公開日:2017年10月13日 
監督:ダグ・リーマン 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

敏腕パイロットとして民間航空会社に勤務するバリー・シールは、CIAのスカウトで偵察機のパイロットとして極秘作戦に参加することになる。作戦の過程で伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルらと接触し、バリーは麻薬の運び屋としても才能を開花させ、事業を拡大し、どんどん荒稼ぎしていくが…。

ネタバレなし感想

トム・クルーズ、ハマりすぎ

「私の勤めている会社、なんか退屈なんだよなぁ」とか「ブラック企業すぎてもうダメだ」とか「そもそも自分に合っていないというか、楽しくないんだよね」とか…そんなことを考えているあなた! それは「転職」のタイミングです!

…転職支援企業の広告みたいな文章を書いちゃいましたが、本作『バリー・シール アメリカをはめた男』を観たら転職したくなるかもしれません。

この映画は、大手航空会社でバリバリ働いていた男が「なんかもっと刺激ある仕事したいなぁ」と思っていたら、CIAから声をかけられ、極秘任務のパイロットに転職。こっちの仕事最高!と解放感に浸っていたら、今度は麻薬カルテルに声をかけられ、麻薬の運搬のパイロットも副業に! ジャンジャン稼いで大金持ち、家族も幸せ、自分も幸せ、転職って素晴らしい!…というストーリー…では微妙にないのですが。まあ、そんな感じです。最初は。

主人公のバリー・シールは実在した人物で、実話なんですよね。内容からいって、レオナルド・ディカプリオ主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や、日本では惜しくもDVDスルーになったウォー・ドッグスのような、いわゆる「軽妙な語り口で描く実録犯罪モノ」であり、「法的にも倫理的にもアウトなんだけどなんか憎めない奴」が主人公になってそれが映画の魅力につながってます。

そして本作でその主人公を演じるのは、みんな大好き“トム・クルーズ”。「なんか憎めない俳優 No1」の男です。

今年は“トム・クルーズ”がミイラと戦う(戦ったといえるのかな…)映画ザ・マミー 呪われた砂漠の王女も公開されましたから、また間もたいして空けずにこのニヤケ面が拝めます。しかも、またユニバーサル・ピクチャーズです。ユニバーサルはちょっと“トム・クルーズ”に頼りすぎですね。

しかし、そんなことはどうでもいい。なぜなら本作は“トム・クルーズ”主演映画史上、最もハマってる作品なんじゃないかと思うくらい「The “トム・クルーズ”」な映画になっていますから。

監督の“ダグ・リーマン”は今年はシチュエーション・スリラーであるザ・ウォールという監督作も見られましたが、なんといっても“トム・クルーズ”主演『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が印象的。まさに“トム・クルーズ”の扱いが絶妙にウマい監督です。

だからか本作は“トム・クルーズ”がもうフィーバーしています。“トム・クルーズ”ファン感涙ですよ。なんか“シャーリーズ・セロン”のアトミック・ブロンドといい、俳優ファンが悶絶するような映画が立て続けに公開されますね。

ぜひ本作を観て「“トム・クルーズ”にはまった男(女)」になってください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

楽しんだもの勝ち?

最初に言ったように本作の“トム・クルーズ”はほんとにハマりすぎです。単純に役に合っているという以上に、バリー・シールというキャラクターが完全に“トム・クルーズ”というキャラクターと一致しているぐらいの勢いです。

バリー・シールは、パイロットの才能に関しては超一流。なんでもティーンの頃から卓越していたようで、天性なんでしょうね。技術的な才能もあって、加えて人から好かれる誘引力もある“持ってる”男です。しかし。どうも周りにホイホイついていって流されがち。CIAに、麻薬カルテルに、と利用されまくります。こういう天才だけど主体的じゃない人っていますよね。

そして、“トム・クルーズ”もまさにそんな典型的な人です。才能もあって人から好かれる誘引力もある“持ってる”男。でもなんか…言い方悪いですけど“利用されている”感じがする…。

“トム・クルーズ”のそれを思い出させるエピソードといえば、やっぱりサイエントロジーですかね。知らない人のために簡単に説明しておくと、“トム・クルーズ”はサイエントロジーという宗教団体にどっぷりハマっていた時期があり、広告塔に使われたりしました。ドキュメンタリー『ゴーイング・クリア:サイエントロジーと信仰という監禁』を観ると映っていますが、実に楽しげな笑顔です。『バリー・シール アメリカをはめた男』とそのまんま同じですよ。

だからといって愚かだと言うつもりはなく、逆になんでこんなにも楽しそうなんだろうと不思議になります。

序盤の偵察仕事で、写真バシャバシャ撮りながらもバンバン撃たれて、でもなぜか楽しそうに「Fuck!」と口にする姿。英語の通じない異国の人にもとりあえず「アミーゴ」と言ってればいいだろう的な雑コミュニケーションで乗り切る姿。クラシックメドレーをBGMにカーセックスならぬプレーンセックス(飛行中)に興じる姿。この全てからほとばしるアホ感

そんな突き抜けてアホすぎるポジティブシンキングを鑑賞して楽しむのが本作の醍醐味でしょう。普段、イマイチな生活をしている人ほど、彼の姿が眩しく映るかもしれません。

飛行機バカ映画

本作のアホさはキャラクター性だけではありません。製作風景もアホなんですね。

“トム・クルーズ”は乗り物好きで無論、飛行機もお手のものなんですが、監督の“ダグ・リーマン”も飛行機操縦ができるそうで。実際の撮影ではこの二人は操縦を交代しながら、“トム・クルーズ”が機体を真っ逆さまにしている間、監督はiPadで撮影するなど、ハチャメチャやっていたようです。そんなことをシェイファーを演じた“ドーナル・グリーソン”が若干呆れ顔かはわかりませんが語ってました。

もはや趣味の延長線上。飛行機を使ったアクションシーンやチェイスシーンができる絶好の機会を得て、大はしゃぎする大きい子どもです。

滑走路としては短すぎる場所で離陸するインポッシブルなミッションシーンとか、絶対にこの二人がやりたかっただけですよ。

もう「アホだなぁ」としか言えない。

飛行機バカたちの作った飛行機バカ映画です。お付き合いありがとうございました。

ちなみに本作の撮影移動中、飛行機事故でスタッフ2名が死亡しているんですよね…。素直に映画を笑えなくなるよ…。

バリー・シール アメリカをはめた男

見え隠れする恐怖と皮肉

こんな感じでアホさ満載の映画ですけど、軽妙に見えて実は結構怖いシーンも裏では漂っているのがスパイスになっていて良かった点でもあります

例えば、麻薬カルテルの描写。本作ではあの有名な麻薬王パブロ・エスコバルなど大物も登場するわけですが、基本軽いキャラです。ぱっと見、気のいいおっさんに見えます。これについて「史実の残虐性が全然ない」と批判する人もいるかもしれません。でも、こういう極悪人たちは四六時中、常に「怖い雰囲気」を出しているわけじゃないでしょう。むしろ普段は良い人そうなんじゃないですか。カルテル・ランドヤクザと憲法なんかを見てるとそう思います。

そういう普段は良い人そうな人物が豹変する瞬間や悪意をちらつかせる瞬間こそ、真に怖い場面ですよね。本作にもありました。麻薬カルテルに招かれて談笑していると銃声が聞こえてあれよあれよというまに事態が急変するシーンなんかは「あれっ、もしかしてここヤバイとこなの…?」な感じが怖いですし、JBの乗る車がドカーンと爆発するシーンは本作の裏に隠れていた恐怖が表出する場面です。

この車爆発事件によって終盤、バリーはモーテルを転々としている間、車にエンジンをかけるたびに躊躇します。今まで散々怖いもの知らずで乗り物を乗り回してきた彼が、乗り物恐怖症になるというのは、なかなかの因果応報です。

JBのエピソードでは、雇われる側だったバリーが雇う側になって、雇われる人間の“扱い”を客観的に知るというのも皮肉が効いてます。

皮肉といえば、本作で終わりに匂わせていたのは「イラン・コントラ事件」と呼ばれています(詳しくはネットで調べてください)。この「イラン・コントラ事件」の公聴会などで真相解明に尽力したトップの人間が“アーサー・L・リーマン”という人。リーマン。そう、この“アーサー・L・リーマン”の息子がこの映画を監督した“ダグ・リーマン”です。そこまでのエピソードを踏まえるとなんとも痛快で皮肉な話じゃないですか。

転職するのはいいけど、調子には乗りすぎないようにしないとね。

(C)Universal Pictures