仮想通貨 ビットコイン
ドキュメンタリー映画『仮想通貨 ビットコイン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Banking on Bitcoin 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:クリストファー・カヌーチアリ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★

あらすじ

突如として世の中に現れ、いつの間にか成長を続けて社会に影響を与え始めたビットコイン。一般にはまだまだ謎めいた存在であるこの全く新しい通貨について、愛好家や専門家、そして黎明期から関わってきた人へのインタビューを交えながら、ビットコインのルーツやテクノロジーを解説し、その辿ってきた歴史とこれからの未来を探っていく。

ネタバレなし感想

ビットコインとは?そして…

「ビットコイン」という言葉、聞いたことがある人はさすがにかなり増えたのではないでしょうか。でも、利用している人はまだまだごく少数だと思います。そういう私も手を出したことはありません。

ビットコインを傍観している人の理由はさまざまでしょう。「興味あるけど利用方法がわからない」「なんか怪しくて信用できない」「そもそも必要性を感じない」…などなど。逆にビットコインを活用している人もその理由は各々あるでしょう。「新しいビジネスチャンスのため」「ギャンブル感覚で金儲けができたら」「資産運用の手段として」「単なる物珍しさ」…とかとか。

そんな多種多様なビットコインへの価値観を持つ人に広くおすすめできるドキュメンタリーが本作『仮想通貨 ビットコイン』です。ずいぶんそのまんまな邦題ですが、原題は「Banking on Bitcoin」。この「bank」はご存知「銀行」という意味と、あと「bank on」で「頼りにする」という意味もありますから、そんなネーミングなんでしょう。

本作はビットコイン入門にとてもオススメです。といっても、「ビットコインの始め方」みたいな“How To”動画ではないですよ。あらすじにも書いたとおり、愛好家や専門家、そして黎明期から関わってきた人へのインタビューを交えながら、ビットコインのルーツやテクノロジーを解説し、その辿ってきた歴史とこれからの未来を探っていく…ほんとにそんな作品です。

ビットコイン無関心層である私が観ても、とても楽しめました。それどころか、ちょっとビットコインに対して誤解というか偏見があったかもしれないなと気づくまでに至りました。心のどこかで「ビットコイン? そんなの自分には関係ないよ」という一種の部外者気取りでいましたが、実はビットコインの根っこにあるのは「通貨」という概念に対する非常に根源的な問いかけなんですね。お金を使っているあらゆる人にとって関係してくるお話なのです。私はビットコインを儲かる儲からないの2択でしか見てこなかったのですが、本作を観て考えを改めなおされました。

ビットコインを「使うor使わない」であなたが得するか損するかは知りませんが、本作を観て「お金ってそもそも何なのだろう」と考えてみるのは損ではないと思います。まあ、そんな小難しいことを考えなくとも、「ビットコインって何なの?」という問いにもわかりやすく説明してくれるので、気軽に観て問題ありません。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

通貨とは何でしょうか

今話題沸騰のビットコイン。ビットコインというのはその是非などとにかくディベータブルなテーマですから、当然のようにビットコインを扱ったドキュメンタリーは本作だけではなく、過去にもいくつか製作されてきました。なので、ビットコインの仕組みや社会への影響などを知りたければ、それらを観るだけでも事足ります。

しかし、それら同趣のドキュメンタリーとは決定的に違う大きな点が本作にはあります。それは最終的に「通貨とは?」という批評的、いや哲学的といっていいかもしれない視点を鑑賞者に提供してくれるつくりになっているということ。

その証拠に、作中の冒頭で教師の女性が子どもたちに「通貨とは何でしょうか」と意見を聞くこれ以上ないわかりやすいシーンが挟まれるんですね。まさにこのドキュメンタリー自体が全編にわたってその問いかけをしてきます。この明確な一本の筋があるおかげで、議論がとっ散らかることなく、ビットコインに対してどんな立場や意見を持つ人でも集中できる…とてもスマートなドキュメンタリーだと思います。

本作はビットコインのドキュメンタリーであると同時に、通貨のドキュメンタリーなのです。

通貨の自由

ビットコインの誕生の理由は、極めて非ビジネス的な動機から始まっているのが意外でした。サトシ・ナカモトという謎の人物が考案した「第三者機関を介入させない電子現金システムを考える」という思想のもと生まれたビットコイン。1990年代にサイファーパンクと呼ばれる面々で盛り上がって萎んでいった暗号通貨の発想が、2008年の金融危機の後に突然息を吹き返し、翌年にはビットコインが産声を上げたという歴史を知ると、なるほどと納得。

腐敗やリスクから解放されるとか、口座を持てない多くの人に金融システムに参加する機会を与えるとか、「ビジネス」ではなく「既存の通貨の問題点を克服した次世代の通貨を作りたい」という革命的ともいえる想いが根底にあるのでした

しかし、ビットコインが急成長すればするほどこのビットコインの本質的使命は揺らいでいきます。

まず、ビジネス的概念がビットコインに泥を塗ります。匿名のネットワーク「Tor」とビットコインが組み合わさった「シルクロード」では禁制品を買える無法地帯と化し、非難の的に。ここで「通貨に責任はあるのか」という問いかけが投げかけられます。

ここで映される公聴会のシーンが本作の白眉であり、まさに「通貨とは何か」を問う大人たちのディベートです。銀行から引き出したお金が麻薬取引に使われても銀行は裁かれないのにビットコインだとなぜ咎められるのか…この主張も理解できなくはないものです。イノベーションは大事だ…全くそのとおりだと思います。対する、通貨への不正や通貨が悪用されることは絶対に許されないし、最優先で防ぐべきだという意見…これも同意です。どちらも正論、まさに理念のぶつかり合い。このぶつかり合いで、私も通貨って何だろうと初めて考え込んでしまいました。お金は良い事にも悪い事にも使えて、なるべく良いことに使ってほしい…じゃあ、どうすれば? うーん、簡単には答えが出ないですよね。

言論や表現の自由と並ぶ「通貨の自由」という言葉が鮮烈に頭に残ります。

仮想通貨 ビットコイン

ビットコインの未来、お金の未来

ビットコインの悪用以外にも大きな問題が。それがビットコイン・センターやマウントゴックスのような取引組織の誕生。現金と交換することを中心で担う組織の存在は、つまり第三者の介入を認めることになり、サトシ・ナカモトの「第三者機関を介入させない電子現金システムを考える」という本質的使命は雲散霧消するだけ。

そして、案の定、破綻・倒産して信頼を失う取引組織。ウォール街の金融危機と全く同じことをしでかしてしまいます。さらにビットライセンスという認可を求める制度が登場し、どんどんビットコインが既存の通貨と変わらない存在になっていく様は複雑な気分になります。しかもです。ビットコインを支えるブロックチェーンの仕組みが金融界の銀行に利用され始めてきたというオチがつくのですから…なんなんでしょう…。結局、金融界のパワーにビットコインも飲み込まれるのかな…。

最初は純粋な思想で生まれたものが、どんどんいろんな人の手垢がついていくことで、当初考えていたものとは全く違うものに変化してしまっていく…どの世界でもよくあることですが、切ない…。

まあ、それこそ「お金とは何か」の答えなのかもしれないですね。

©Netflix