ババドック 暗闇の魔物
映画『ババドック 暗闇の魔物』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Babadook 
製作国:オーストラリア 
製作年:2014年
日本では劇場未公開:2015年にDVDスルー
監督:ジェニファー・ケント

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

シングルマザーのアメリアは、学校で問題ばかり起こす息子サミュエルの扱いに悩まされていた。ある晩、サミュエルがアメリアの知らない絵本を持ってきて読んでほしいとせがむ。それは「ミスター・ババドック」という不気味な絵本だった。それ以来、彼女の周囲で不可解な出来事が次々と起きるようになり…。


ババドックさん、何やってるんですか

2017年、あるオーストラリアのホラー映画がネット上で脚光を浴びました。それが本作『ババドック 暗闇の魔物』です。

2014年に公開されて批評家から非常に高い評価を獲得した本作。シッチェス国際映画祭のようなサブカルジャンルをメインに扱う映画なら理解できますが、それだけでなくオーストラリア・アカデミー賞やニューヨーク映画批評家協会賞でも賞を得ているという点で特筆できる変わったホラーです。つまり、ホラー映画ファンのみならずあまりホラー映画を観ない人からも支持を集めているのです。その理由は、単純なホラーとしても怖いは怖いのですが、それ以上にストーリーがしっかりしているから。こういうことを言うとホラー映画全般に失礼ですけど、本作はホラー映画らしからぬ物語の共感を呼ぶ深みがあります。

ただ、残念なことに、日本では劇場未公開で、2015年にビデオスルーになっているため、ほとんど知られていないんですね。

そんなホラー映画が3年も経ってなぜネットで注目されたのか。

きっかけはNetflix。『ババドック 暗闇の魔物』を配信しているこのサービスですが、なぜか「LGBTQがテーマの映画」というカテゴリーに同作がカテゴライズされていたと、ある人がSNSで報告。それが瞬く間に拡散されて、最終的にババドックがLGBTQのアイコンになってしまったのです。

一応、書いておくと本作にはLGBTQの要素は一切ありません。ババドックは主人公を恐怖に陥れる存在なだけです。

どうやら発端となった画像はフェイクだったらしいですが、当のNetflixもそれを気にするどころか乗っかる始末。ババドックが「否定されるほど強くなる」という設定のため、それが差別に打ち勝とうとするLGBTQのイメージにがっちりハマっちゃったんですね。

LGBTQのレインボーカラーを背景に、何もわかってなさそうな顔のババドックのミスマッチ感が最高に可笑しくで、個人的に大好きです。

ババドックLGBT

これを機に、ぜひ映画の方も観てほしいので、気になる人はどうぞ。ホラー映画を普段観ない人にも観やすいと思います。グロな演出はないです。

なお、LGBTQのカテゴリを探しても見つからないですからね。






↓ここからネタバレが含まれます↓





子育ての恐怖

本作はホラー映画としてはベタな展開であり、演出面で新しさを期待するとガッカリするかもしれません。

しかし、キャラクター、映像の作り、伏線の積み重ね、恐怖演出の見せ方…どれもがクオリティが高く、全体的な総合点が高い印象でした。これが“ジェニファー・ケント”監督の初監督作らしいですが、素晴らしい手腕だと思います。期待の逸材ですね。

本作の魅力はストーリーのテーマです。結論から言ってしまえば「育児」をホラーの型にハメた作品でした。グッドナイト・マミーなど、母と子を主役に据えたホラー映画では、育児の苦悩をホラーで描くというのはありがちですが、本作の場合は語り口が上手いです。

ババドック 暗闇の魔物

これもどれも母・アメリアを演じた“エシー・デイビス”と、息子・サミュエルを演じた“ノア・ワイズマン”の熱演があってこそ。アメリアはもう序盤から「ああ、もうこの人ダメだ」と感じさせる風貌です。仕事場の老人よりも覇気がないですから。サミュエルの学校関係者に「この子に必要なのは理解」と言っていたアメリアですが、誰よりもアメリアこそがサミュエルを全然理解していない。サミュエルが怪我しても反応が鈍いことからも、息子への愛情の弱さが伝わってきます。その彼女が、ババドックの絵本によって、いよいよ精神的に追い込まれて病んでいく描写が非常にキツくていいです。

一方のサミュエルは、良い感じのクソガキっぷりが楽しいです。マジシャンのパフォーマンスの場面とか、私は普通に可愛いと思うのですが、当のアメリアは素直に受け止められない。まあ、子育て経験のある人なら少なからず共感できることだと思いますが。

出産日に夫を事故で失い、息子に複雑な感情を抱いているシングルマザーを理解してくれたのは、一番身近にいた息子でした。こういうやっぱり理解し合えるのは母子だけという着地点はルームでもありましたが、やはり定番ですね。「ママはボクのことが嫌いでも、ボクはママのことが好きだからね」とか言わせるのはズルい…。

苦言を言うと、最初からこのテーマが丸わかりすぎるのは好みじゃなかったかな…。

それでも良作なのは変わりなく。本作はババドックと共存するようなかたちで終わりますが、一種の恐怖とどう折り合いをつけるかという子育ての本質を体現していたと思います。

ババドックさん、次はLGBTQのお仕事ですよ、出てきてください。

©The Babadook