バーフバリ 王の凱旋
映画『バーフバリ 王の凱旋』(バーフバリ2)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Baahubali 2: The Conclusion 
製作国:インド  
製作年:2017年 
日本公開日:2017年12月29日(完全版は2018年6月1日) 
監督:S・S・ラージャマウリ 

【個人的評価】
 星 9/10 ★★★★★★★★

Plot Summary

マヘンドラ・バーフバリはカッタッパから父の最期に関する話を聞いていた。蛮族カーラケーヤとの戦争に勝利してマヒシュマティ王国の王に指名されたアマレンドラ・バーフバリは、クンタラ王国の王女デーヴァセーナと恋に落ちる。しかし、王位継承争いに敗れた従兄弟バラーラデーヴァは邪悪な策略で彼の王座を奪い、バーフバリだけでなく生まれたばかりの息子の命まで奪おうと魔の手を伸ばす。

ネタバレなし感想

バーフバリ教にようこそ

この世界の歴史は「バーフバリ」を知る前と知った後で分けられるのではないでしょうか。バーフバリ紀元説です。はい、頭、オカシイですね。

でも、まさか日本でもここまでの“バーフバリ旋風”が巻き起こるとは思いもしなかったです。
『バーフバリ 伝説誕生』感想(ネタバレ)
というか、前編『バーフバリ 伝説誕生』の公開時はまだそこまで騒ぎになっていなかった気がしたのだけど、後編の『バーフバリ 王の凱旋』が日本で公開された2017年も終わりとなる時期からの急激な盛り上がりようは何だったのか。ちょうどこの時期は映画好きな人たちがその年の「ベスト10」をああだこうだと語りだすタイミングで、それと重なったのも功を奏したのかもしれません。とにかくフィーバーでした。

そして2018年6月には「完全版」と称したカットなしのフルバージョンが公開ですよ。ここまでの好待遇なインド映画は久しぶり、いや、かつてないのでは? しかも、私の印象だと、結構熱烈なファンには女性が多く、非常に“バズ(拡散)”パワーの高い観客層に支えられています。これは「バーフバリ」はこの作品だけでなく、今後日本でインド映画市場を大きく開拓する起爆剤になるかもなと思ったり。いや、そうなるべきです。映画配給会社さん、インド映画、絶対に狙い目ですよ!

そんなこんなで話題騒然の『バーフバリ』2部作ですが、知らない人からしてみれば「何言ってんだこいつ」ですよね。ちなみに本作公開前の時期で「バーフバリ」とネット検索したら「金属製品のバリ取り、バフ掛け」に関する項目が表示されました。まあ、そうだよね、間違ってない。

映画作品について簡単に言うと、バーフバリっていう名の凄い男がいるんです。そいつが凄いことをやってみせて老若男女が「バーフバリ!」と歓喜する。それだけです。えっ、前編後編合わせて5時間もあるのにそれだけかって? そうです、はい。

もう少し真面目に説明すると、本作は「マハーバーラタ」というインド神話の叙事詩からインスピレーションを得て生まれたもので、ジャンル的にはファンタジー歴史アクション。古いものだと『ベン・ハー』とか、最近だと『マッドマックス 怒りのデスロード』に近いタイプです。

本作がなぜこうも人を惹きつけて“バーフバリ信者”にしてしまうのか。それは観ればわかる(説明放棄)。

前編の『バーフバリ 伝説誕生』は数百円でレンタルできます。これで人生観が変わると思えば安いです。あとはもう後編の『バーフバリ 王の凱旋』にレッツゴーですよ。ちゃんと布教用にまだ観ていない人も誘って、ね…。

(なんか怪しい宗教勧誘みたい…)

鑑賞前のおすすめ PiCKUP!
↑前編『バーフバリ 伝説誕生』は必ず鑑賞しておきましょう。







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

大作がやりがちな失敗をしない

この作品は、観た人の言語能力を奪い「バーフバリ!」と連呼させるだけしかできない状態にさせる効果があるので丁寧に考察しようと思うと難しいですよね。まあ、でも本国では学者や教授がガチで学術的に分析しているので、気になる人はそっちを参照してください。

私なんぞ愚民が「バーフバリ」を語るなんて失礼にもほどがありますが、そこはカッタッパになったつもりで語ってみたいと思います。

本作を前編・後編(もちろん完全版も)合わせて鑑賞してみて思ったのは、実際は3世代(シヴァガミ世代、アマレンドラ・バーフバリ世代、マヘンドラ・バーフバリ世代)の物語なわけで、それはつまり「スター・ウォーズ」でいうところのエピソード1~9(まあ、9がどういう話になるかは知りませんが)を2作にまとめたようなものと言えます。その語り口が実に鮮やか。無駄がないです。ちゃんとキャラクターの背景が納得でき、その後の行動につながる動機としても腑に落ちて、伏線を効かせることもできる。『バーフバリ』2部作は雰囲気的に長い長いと言われるかもしれませんが、実は物凄くコンパクトにまとまっているのです。

主要登場人物もこのスケールにしては非常に少なめ。これもハリウッドなんかでは考えられないことです。やっぱりキャラをついつい増やしてしまいますよね。しかし、『王の凱旋』でもクマラ・ヴァルマというデーヴァセーナの従兄が加わったくらいで、メインキャストは前編から変わっていない。なのですんなり入れて、かつ既存キャラを濃厚に掘り下げることができます。

大作でありながら大作がやりがちな「キャラを増やしすぎる」とか「風呂敷を広げ過ぎる」などの失敗はしていない。ビジネスを優先して作品を商業的に引き延ばさない。ここが個人的には一番尊敬するところ。“S・S・ラージャマウリ”監督の出しゃばりすぎない統制力&想像力、まさにバーフバリです。

ハリウッドの某会社、某監督もちょっと見習ってほしい…。

バーフバリ 王の凱旋

王になりたければ弓矢を学べ

本作の無駄のなさといえば、前作の感想でも書きましたがアクションもそうです。

この作品の特徴と言えば豪快という言葉で表現していいのかも怪しい、ケレン味が強すぎる、常に観客の予想の右斜め上をいくアクションの数々。前作もとくに後半の集団戦は大きな見せ場で大変楽しませてもらえましたが、今作はそこからさらにパワーアップ。バトルシーンも大幅増量していました。なぜかはわからないですけど、動物を使ったものが増えましたね。“ファイヤー牛”とか発想がゲーム脳すぎる…。そしてなぜか我らがバーフバリは常に動物に立って乗るというこだわり。冷静に考えると王でもなんでもなく、それはただの曲芸師じゃないかとツッコめるのだけど、観ている間は気にならない不思議。

しかし、この作品のアクションの凄いところは単に派手というだけでなく、しっかりそのアクションに映画的な意味合いも持たせている点です。アクションひとつひとつで登場人物の心理変化や葛藤を映し出すからこそ、観客は一層その映像に魅入られるわけで。

例えば、前半から執拗に繰り返される弓矢を射るという動作のくだり。最初はバーフバリ(父)がゾウとの連携プレーで巨大な弓矢を放つという、いきなりどうかしている場面から始まります。続いて後に妻となるデーヴァセーナが弓の名手で、でも2本の矢を放つことはできずにいると、正体を隠していたバーフバリ(父)が覚醒。矢を3本放ってみせる。ここからは二人のコンビネーションで矢を無数に連射。で、ここで終わりではなく、最終的にその流れはバーフバリ(子)にも引き継がれます。彼が終盤の戦闘でやってみせたのは、“兵士”を複数人文字通り“飛ばして”敵の牙城を突破するという奇策。弓矢の究極的な発展版です。他にもバーフバリ(父)が水汲みに苦戦する民のためにバネ式で水を引っ張り上げる仕掛けを作っていましたが、あれはこの終盤の伏線でした。

つまり、このように弾力を利用して何かを飛ばすという動作を劇中を通して繰り返し描きつつ、それが権威の象徴、恋の駆け引き、民からの信頼、下克上的な反逆と、それぞれ意味を成しているというのが面白いです。最後の兵士を飛ばすのは絵面的にはバカバカしいのですが、バーフバリ(子)を慕う兵がいるからこそ成せる技であり、それはまさに王の威厳そのもの。あの瞬間、マヘンドラ・バーフバリはただ親の七光りというだけでなく、自身の力で王の素質を示したとも言えます。

3時間もの間に同列のアクションをここまで濃厚に掘り下げられる映画はなかなかないと思います。

バーフバリ 王の凱旋

フェミニズムさえも塗り替えろ

本作が人を惹きつけて“バーフバリ信者”にしてしまう理由。

「マハーバーラタ」というインド神話の叙事詩が元になっているらしいので、宗教的な教えを描いた映画なのかなと当初は思っていました。しかし、なんでもその叙事詩とは描かれるテーマ性は必ずしも一致するとは限らないようです。

私が興味深いのはとくに後編の本作で強く印象付けられる男女観の描写。現代的な言い方をすればフェミニズムに溢れる映画になっています。なんといっても「シヴァガミ」というキャラクターです。夫を差し置いて国を統治する立場になるだけのカリスマ性の素晴しさは前編でも示されていたのですが、今回はそこに「デーヴァセーナ」というさらに猛々しい女性の登場によって、二人の女性の間で嫁姑バトルのような戦いが勃発する展開が描かれます。それを面白くさせているのは、これが単なる嫁姑という古典的な確執にはなっていないということ。二人ともあまり嫁姑という古臭いカテゴリにこだわる人ではないので。

総括すると、本作は「男vs女」の戦いなんてはなから蚊帳の外であり、主題はいわば「旧フェミニズムvs新フェミニズム」なんですね。

それに対してバーフバリはどちらを選ぶか。つまり、子として夫として男として王として、正しい選択を決める。このドラマは非常にこの21世紀に突き刺さるものでしょう。本作は女性ファンが多いのも納得です。

結果的にバーフバリの選択は、儀礼や忠義というものを飛び越えて固定観念を覆すわけで、これは宗教や神話を更新するものでもあります。だから大袈裟でもなんでもなくこの作品は“新時代の教典”になりうるのではないでしょうか。伝統だって宗教だって間違えることがある、時代に合わなくなることもある。だったら変えようじゃないか。それができる存在こそが指導者だろう。このテーマ性はとても現代に必要なものですよね。

ということでまだまだ語り尽くせないバーフバリ。とりあえず、マヒシュマティ王国に移住するにはどうしたらいいんですか…。

おすすめ PiCKUP!
↑「バーフバリ」のS・S・ラージャマウリ監督が前に手がけた『マッキー』。こちらも色々な意味で凄い。
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