ヒトラーの忘れもの
映画『ヒトラーの忘れもの』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Under sandet 
製作国:デンマーク・ドイツ 
製作年:2015年 
日本公開日:2016年12月17日 
監督:マーチン・サントフリート 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★

あらすじ

第2次世界大戦後、デンマークの海岸沿いに残された無数の地雷を撤去するため、元ナチス・ドイツの少年兵たちが連れて来られる。彼らを指揮するデンマーク人軍曹はナチスに激しい憎しみを抱きながらも、無垢な少年たちが次々と命を落とすのを見て良心の呵責にさいなまれるようになっていく。

ネタバレなし感想

地雷を除去した少年たち

戦争が生み出した最悪の兵器といえば、日本では「核兵器」がどうしても話題を占めがちですが、「地雷」も忘れてはならない存在です。

「地雷」とは本当に厄介な兵器で、たとえ戦争が終わったとしても、一生残り続け、無差別に人を傷つけます。じゃあ、なぜ地雷なんて使われたのかと言うと、やはり「安い」からなのでしょう。モノにもよりますが、なんと1個300円らしいですから。劇場で映画を観る料金で6個くらいの地雷を買えてしまうのです。統計によれば、2015年だけで61の国と地域で6461人が被害に遭っています。最近まで自衛隊が活動していた南スーダンでも地雷が多数埋まっており、国連PKO局地雷対策サービス部(UNMAS)と協力しながら作業にあたっていました。

そんな地雷の除去に従事した知られざる功労者を描いた映画が本作『ヒトラーの忘れもの』です。舞台は、第2次世界大戦終戦直後のデンマーク。この地はドイツによって5年間も占領されており、その間にナチス・ドイツ軍が海岸などに220万もの地雷を埋めました。当然、終戦後はこの膨大な数の地雷を撤去することになるのですが、それを強制されたのは敗残ドイツ軍の少年兵たちだった…という歴史が…。本作はその少年兵たちの過酷すぎる日々を映像化したドラマです。

そんなこと、いくらなんでも当時でも禁止じゃないの?と思いますが、デンマークはドイツと交戦していたわけじゃないので捕虜の扱いを規定したジュネーヴ条約の適用外だったみたいで…。

デンマーク・ドイツの合作であり、原題は「Under sandet」で「砂の下」という意味。英題は「Land of Mine」。これは「地雷(Land mine)」「地雷の土地」「私の土地」というトリプルミーニングになっていて、捻りが効いてますね。邦題の「ヒトラーの忘れもの」は、なんか若干残念ですが…。あえて邦題を擁護するなら、「忘れもの」は地雷であり、少年兵でもあるので、ダブルミーニングにはなってますけど…ナチス映画の邦題は「ヒトラー」に頼り過ぎ問題ですね…。

重たいストーリーであり、ズシンとくるものがある作品ですが、米アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされただけあって、見て損はない素晴らしい映画です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

“ドーン”のインパクト

重たい題材について語る前に、本作はまず普通に映画として映像や展開が面白く、何より見せ方が巧みで感心しました。

本作は地雷除去が描かれるだけあって、常に尋常ではない緊迫感を伴います。初めに本物の地雷を使った訓練シーン。ここの緊張感が本当に最悪で、観てるこっちとしては「早く終われ、早く終われ…」と願う気持ちでいっぱい。そして案の定、最初の“ドーン”。ここは土煙と爆音だけで犠牲者を見せません。

いよいよ砂浜での実地除去作業が始まり、あまりの緊張感に作業にあたっていたヴィルヘルムが吐くと、2度目の“ドーン”。呆然と立ち尽くす仲間たちをよそに、腕が無残にもげて苦痛に呻くヴィルヘルムの姿が映し出されます。このシーンで初めて犠牲者を映します。ここまでの演出は、まあ、ありきたりといってはあれですけど、想像しやすいですよね。

ただ、このあと、続く作業で地雷が2重になっていることを発見した直後に、ヴェルナーの作業する砂の下で3度目の“ドーン”。ここで犠牲者のヴェルナーが映らないんですね。正確には木っ端微塵に吹き飛んだのでしょうけど、これは衝撃でした。戦争映画ってゴアな表現を描くことで悲惨さをだすものですが、このシーンは“何もないからこそ”の悲惨がある。最悪のゴア表現は“何もないこと”なんだと実感させられました。

この後、休日と称して少年たちと軍曹が運動し合う、息抜き的なシーンの直後に4度目の犬“ドーン”。そして、地雷除去作業終了間際の6度目のトラックごと“ドーン”。これらは不意打ちとして本当に最低で…(映画としては面白いですよ)。これのせいで、ラスト、生き残った少年兵たちが国境に走り去るシーンでも“ドーン”があるのではと身構えちゃったじゃないですか…。

忘れてはならないのは5度目の“ドーン”。地雷地帯に迷い込んだ少女をエルンストが救い出した後、そのまま奥へ歩いていき爆死。ここは“ドーン”と書きましたが、“音がない”んですね。

映画において爆発は安易なショッキング仕掛けとして乱用されがちですが、本作はその全てに印象を持たせているのでした。

ヒトラーの忘れもの

憎しみを除去した軍曹

本作は戦後を描く戦争映画としての新鮮さもあります。

戦争というのは「未来の世代に遺恨を残すもの」という構図をここまで端的に表現したストーリーもないでしょう。

ナチス・ドイツが設置した地雷を撤去して犠牲になるのはドイツの未来を担うはずの若者。そして、この地雷撤去を少年にさせる行為自体も、デンマーク側にとって負の歴史として未来のデンマーク人世代に残り続ける。負の連鎖です。

一方で、残り続ける憎しみとそれを許せるかという過程を見事に描いています。その点でもラスムスン軍曹の変化には心動かされるものがありました。映画が始まった直後、真っ暗な画面で「スー、フー」と音だけが聞こえるわけです。なんだ? 寝てるのか?と思ったら、憤怒の表情のラスムスン軍曹の息でした。そして、撤退するドイツ軍のひとりをボッコボコにする軍曹。軍曹のプライベートはそこまで詳細に語られないですが、とにかく根深い憎しみがあることは一目瞭然。その軍曹が最後はああするとは…。

少年たちは地雷を除去し、かたや軍曹は憎しみを除去できたのですね。

地雷は忘れても消えはしない

本作で描かれる少年たちを利用した地雷除去の歴史。これは、デンマーク人のほとんどが目を背けてきた知られていなかった史実だそうです。というのも、この後、冷戦時代に突入し、デンマークとドイツは国レベルでは協力関係を築いたため、この史実がうやむやになったとのことで。もちろん、今はそんなことないのですが、こういう歴史から忘れられそうになった負の史実はたくさんあるのだろうなと思うと…

ちなみに劇中で最後に登場したスカリンゲンという土地。「デンマーク最後の地雷原地帯」と言われ、スカリンゲンの地雷除去が完了したのはなんと2012年。しかし、翌年には観光客によって未処理の地雷が発見されてしまったというのですから…もうね。

地雷も、戦争も、絶対ダメだと心から思うのでした。

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