ハイドリヒを撃て
映画『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Anthropoid 
製作国:チェコ・イギリス・フランス 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年8月12日 
監督:ショーン・エリス 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

第2次世界大戦直下、ヒトラーの後継者と呼ばれたナチス高官ラインハルト・ハイドリヒは、ユダヤ人大量虐殺の実権を握っていた。ハイドリヒ暗殺計画を企てたイギリス政府とチェコスロバキア亡命政府は、ヨゼフ、ヤンら7人の暗殺部隊をパラシュートによってチェコ領内に送り込むが…。

ネタバレなし感想

エンスラポイド作戦

ナチスを描いた映画は1年にいくつ公開されているのだろうか。数えたことないですけど、アメコミ映画の数といい勝負してるんじゃなかろうか。もはやジャンル化している気さえする「ナチス映画」ですが、今回、取り上げる映画もまたナチス映画です。

それが本作『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』

なんか…すごく“くどい”邦題ですよね。「ハイドリヒを撃て!」と「“ナチの野獣”暗殺」の部分は同じことだろうに…なぜ2回言ったのか…。

原題は「Anthropoid」。聞きなれない単語ですが、これは「類人猿」という意味です。どういうことかというと、本作は、第二次世界大戦中に大英帝国政府とチェコスロバキア駐英亡命政府により計画された、ナチスに占領されていたチェコを統治していたラインハルト・ハイドリヒを暗殺する作戦を描いたもの。この作戦のコードネームが「Operation Anthropoid(エンスラポイド作戦)」だったということです。

ラインハルト・ハイドリヒという人物は、ナチスのナンバー3の権力者と言われ、ゲシュタポ(国家秘密警察)、親衛隊保安部(SD)、刑事警察を統括する巨大警察組織国家保安本部(RSHA)の長官であり、親衛隊(SS)の実力者でした。そして、ユダヤ人虐殺の推進者でもあり、その冷酷で暴虐なキャリアから「金髪の野獣」だとか「絞首刑人」だとか恐ろしいあだ名を仲間からも付けられていたようです。

そのラインハルト・ハイドリヒを暗殺するという「エンスラポイド作戦」。これまで何度か映画化されており、『007は二度死ぬ』でおなじみのルイス・ギルバート監督の『暁の七人』などがあります。

一方の本作は、ストーリーとしては非常に淡々としているというか、史実をそのまま映像化しましたという感じで、「エンスラポイド作戦」を知らない人にとっては良い歴史勉強教材になると思います。

観終わった後は「Wikipedia - エンスラポイド作戦」が情報量も多く整理されているので鑑賞後復習に最適でしょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

史実の重みを重々と

邦題だけの雰囲気だと「ナチの野獣を暗殺だ!ハイドリヒを撃て!Yeah!」みたいな軽快なノリを感じさせますが、そんなはずもなく。観たらわかるとおり、全くそんな軽さはない。終始、重苦しい空気の流れる作品でした。

冒頭、いきなり雪積もる夜の森にパラシュート降下したばかりのヨゼフとヤンの二人から始まる本作。つまり、もう映画開始時点で敵の地に潜入しているわけで、バレるかバレないかの緊張感がこの後、映画の後半までずっ~と付き纏います。

そして、ヨゼフとヤンも「暗殺やってやるぜ!」みたいな復讐心に燃えた感じではなく、「やるしかない」というとても切羽詰まった追い込まれ方がリアルでした。震える手、額から垂れる汗…思わず観客であるこちら側も唾を飲んでしまいそうで。

驚きなのが、劇中で描かれるいかにも映画的な出来事が実際にあったということです。いざラインハルト・ハイドリヒを暗殺しようと彼の車の前に飛び出したら、銃がジャミングするシーンとか。その直後、車に手投げ爆弾を投げるだとか。はたまた、後半の教会籠城戦で地下室に追い込まれた暗殺メンバーが水責めにあうとか。そんな歴史があったのかと…。

史実の重みを感じる作品でした。

ハイドリヒを撃て!

ショーン・エリス監督の本領発揮?

本作を手がけたのはイギリス出身の“ショーン・エリス”監督

これまでの過去作だと『フローズン・タイム』(2006年)や『ブロークン』(2008年)と、ちょっとSF要素のあるサスペンスを作ってきた人でしたが、本作のようなドキュメンタリーチックな戦争歴史モノというのは正直意外でした。

なんでも2001年に「エンスラポイド作戦」のドキュメンタリーを見たのがきっかけで興味を持ち、以後、膨大な歴史的資料を調べあげて、本作のための準備に15年もの年月を費やし、製作にこぎつけたそうです。並々ならぬ関心であり、だからあんな史実どおりなのかと納得。

“ショーン・エリス”監督はファッション・フォトグラファーだったという経歴もあり、私はアート系な作品を撮る人なんだと若干ナメた先入観を持ってましたが、監督作『メトロマニラ 世界で最も危険な街』を観て評価を再考。この映画は、貧しい家族4人がフィリピンの首都であるマニラに行きつき、そこで冷たい現実のなかで必死に生き抜こうとする姿をサスペンスフルに描いたドラマです。緊迫感溢れる映像に魅入ってしまいました。『メトロマニラ 世界で最も危険な街』の緊迫感演出には本作『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』と共通するものがありましたね。日本では劇場未公開でしたが、DVDや動画配信サービスで観られるのでぜひ。

↑批評家からの評価も高い一作。

現代へのメッセージ性

本作の最大の見せ場は、教会での籠城戦です。バレるかバレないかの緊張感が終わりをつげ、いよいよ最期が迫る…それでも1分1秒でも抵抗したい…そんな切実さが胸を打ちます。

籠城戦といえば、マイケル・ベイ監督の13時間 ベンガジの秘密の兵士も後半に籠城戦があるのですが、やはりそっちはアメリカ的というか、すごくヒーロー性の強い描き方にどうしてもなってました。本作も、相手はあのナチス。悪に屈せず抵抗する戦士たち!みたいな描き方もできたはずです。

でも、本作はどこか絶望感の方が優っている描写でした。これは戦況的に不利とかそういう理由もありますが、それ以上に「この暗殺は結局なんだったのか」という疑問を抱えていることが大きいのでしょう。良かれと思ってやった暗殺が引き金で、大量の罪なき市民が殺され、村さえも丸ごと消えたわけですから。幾度となく投げ込まれる手投げ弾に最後は無の境地みたいな様相で投げ返しているシーンで、復讐の連鎖の虚しさを映し出している…そんな感じさえしました。本当に彼らは何を思って亡くなっていったのだろうか…。

この暗殺が原因で起こった大量虐殺を知った連合国側は、以後、ナチスのトップの暗殺をためらうようになります。これは良い学びなのか、それとも…。

しかし、現代に目を向けてみれば、相変わらず暗殺や武力で解決するやり方がまかりとおっているわけで。そういう意味では、この「エンスラポイド作戦」というのは何度も映画化されるだけの価値ある、現代へのメッセージ性の強い題材なのかもしれません

実はもうひとつ「エンスラポイド作戦」を題材にした映画が最近製作されました。それはフランス映画で『HHhH』という何とも変わったタイトルの作品。こちらも日本公開された際にはぜひ観てみたいものです。

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