アナイアレイション 全滅領域
Netflix映画『アナイアレイション 全滅領域』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Annihilation 
製作国:アメリカ・イギリス 
製作年:2018年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:アレックス・ガーランド 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

生物学者のレナは、夫のケインがある任務に出発したきり帰らなくなって1年が経過し、喪失感に苦しんでいた。ところが突然ケインが家に現れる。そして、ケインは米国の海岸地帯で拡大を続けていた不可解な現象が起こる謎の領域「エリアX」の調査に行っていたことを知る。事情を聞かされたレナは自身もまた調査団に加わり、未知の世界へ足を踏み入れるが…。

ネタバレなし感想

信頼できるSF監督

2017年のアカデミー賞は「モンスター映画」(『シェイプ・オブ・ウォーター』)に「ホラー・コメディ映画」(『ゲット・アウト』)とジャンル作品が歴史的大躍進を遂げました。これまで賞レースでは蚊帳の外であったジャンル作品がついに認められ、今後さらなる盛り上がりを見せそうで楽しみです。

そんなジャンル作品ですが、一足先にアカデミックな賞の世界で評価されているジャンルがありました。それが「SF」です。もともとSFは純文学的なタイプのものも昔からあるため、評価されやすい土壌はあったのでしょう。

最近でも高い評価を受けて賞に輝いたSF作品がありました。

2015年のアカデミー賞にて、脚本賞にノミネートされ、まさかの視覚効果賞を受賞し、小規模なインディペンデント映画ながら私たちを驚かせた『エクス・マキナ』です。ビジュアルやシナリオだけでなく、ほぼメインキャラといっても良いアンドロイドを演じたアリシア・ヴィキャンデルなど、俳優の演技も称賛され、幅広い支持を得たのが印象に残っています。

その『エクス・マキナ』が監督デビュー作である“アレックス・ガーランド”の最新作が本作『アナイアレイション 全滅領域』です。

私も『エクス・マキナ』を観て“アレックス・ガーランド”監督は信頼できる人間だと確信していましたが、今作も信頼できる仕事っぷりを発揮しています。

本作は製作の段階でひと悶着があり、完成時に製作総指揮のひとりが、作品が知的で複雑すぎるので一般ウケしやすいものに修正しようと提案。しかし、監督はそれに反発。ゴタゴタと議論している間に、配給のパラマウントがアメリカと中国の配給権以外を放棄。それをNetflixが買い占めたという経緯があります。

最大の映画市場である2国は押さえて後は売る判断をしたパラマウントのビジネス主義もちゃっかりしてますが(映画業界ではよくある話)、一般ウケを狙った修正に反対した“アレックス・ガーランド”監督は偉いと思います。というか、そういうエンタメ方向に走らず、硬派なSFを貫いていたからこそ『エクス・マキナ』は評価されたのに…。

実際の作品の中身はエンタメ的なわかりやすさを排除した、非常に重厚なSFになっています。これはSFオタクがよだれを垂らして満腹するパターンですね。『エクス・マキナ』好きなファンは気に入るはず。印象的な視覚効果も盛り込まれていますし、『エクス・マキナ』に出演していた“オスカー・アイザック”と“ソノヤ・ミズノ”も登場します。ただし、二人は出番少なめですけど。

信頼できる“アレックス・ガーランド”監督の濃厚SFをお楽しみに。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

本作のテーマはタイトルにある

本作は何も考えずに普通に観ていると、生物が突然変異を起こした異世界で繰り広げられる「ジュラシックパーク」的なパニック作品のような印象を受けます。やたらと勢いよく噛みついて水中に引きずり込む変異ワニとか、あんまり英会話能力が乏しい変異クマとか、出てきますし。でも、そういう摩訶不思議アドベンチャーを期待していると、最終的な展開とかについていけなくなるかもしれません。

しかし、本作のテーマはちゃんとタイトルに書いてあるのです。

「Annihilation」。聞きなれない単語ですが、これは辞書で引けば「絶滅」や「全滅」と出てきます。そう聞くと生物の絶滅を連想しますが、今作ではそういうことではなくて、「Annihilation」のもうひとつの意味、つまり物理学用語である「対消滅」のことです。

「対消滅」という言葉は物理学の勉強をしないと知らない小難しい用語ですが、私の拙い説明でよければ解説すると…。まず、この世界には物質がありますがそれと対になる反物質というものが存在します。それで物質と反物質が衝突し、エネルギーが他の粒子に変換される現象を「対消滅」といいます。通常、質量がエネルギーに変化するものですが、実はその生じるエネルギー量は微々たるもの。それが対消滅では考えられないほど莫大なエネルギーを生み出すことができます。よく宇宙モノのSFで宇宙船のワープ装置が対消滅を利用している設定だったりする作品があります。しかし、現状、実用化はできていません。もし対消滅を自由にコントロールできれば私たちの世界は一変するでしょう。

ところでその対消滅を起こすのに欠かせない反物質。どこにあるのかというと、そんな身近にはありません。あったら対消滅が起きてしまいますから。そもそも、宇宙の誕生であるビックバンは物質の生成と対消滅が繰り返された結果、残った物質が私たちの暮らす宇宙なのです。

粒子があれば反粒子がある。原子があれば反原子もある。では人間には反人間はいるのか?

それこそが本作の描かれるテーマじゃないでしょうか。

出会ってしまった反物質

本作の舞台は、宇宙から飛来した物体の衝突によって生じた正体不明の「揺らめく光(シマ―)」で覆われた空間「エリアX」。

その正体こそ私たちが出会ってはならない存在、私たちの反物質なのでしょうか

レナの夫ケインは調査団最後の生き残りとして「エリアX」の中心である灯台でもう一人の自分と遭遇。「俺は何だ? 君か? 君が俺?」と混乱する中、自らは白リン弾で焼身自殺をします。そしてその様子を映したビデオカメラに映っていたもうひとりのケインはレナの元へ。これが始まりです。

夫に続いて次の調査団に加わったレナは、仲間を失いながらも灯台に到着。先にたどり着いていた隊長のヴェントレスは「私の中にある。全滅(アナイアレイション)よ」と言って謎の光を放出。それはまるで対消滅を起こして膨大なエネルギーを生み出したようでした

そして、現れたのはレナと行動を同じくする不気味な銀色人間。姿かたちまでレナに似てきたこの存在を、レナは白リン弾で燃やして逃走。レナは尋問された後、目を覚ましたケインと会話。「ケインじゃない、そうね」「ああ、君はレナ?」そう言って、抱き合う二人で映画は終わります。

対消滅の関係を意識するとこのエンディングは非常に意味深に解釈できます。序盤で家に帰ってきたケインと話をするレナは、手をつないだことで、ケインに異変が起きます。対消滅の前触れのように。一方で、ラストのレナとケインは抱き合っても何も起こらない。つまり、ケインが反物質なら、このレナもまた…ということなのでしょうか。

人間と対になるものを描くという意味で『エクス・マキナ』とテーマ性が重なっているのも、“アレックス・ガーランド”監督らしさが発揮できる良い題材でしたね。

アナイアレイション 全滅領域

死の直前に出会うのは自分自身

ストーリー以外だと、世界観再現は非常に素晴らしかったですね。

最初は変異した怪しい生物溢れる魔境なのかと思いましたが、しだいに神秘的な雰囲気さえ帯びてくるのがまた作品のテイストをガラッと変えます。SF作家として有名なJ・G・バラードの「結晶世界」に影響を受けているのでしょうか。終盤のクリスタルの木々も綺麗でした。

本作の対消滅というテーマはつまり「死」も暗示していて、主人公含む調査団が全員女性というのも意味を感じます。たぶん前回の調査団は全員男性だったのかな。だとしたら、男の方が早く寿命が来ますから、死の順番になっているのかもしれません。

「エリアX」に入ると、認知症のような状態になるのも「老い」を示すようですし、最終的にたどりつくクリスタル世界とあの灯台の穴はあの世の入り口のようでした。

原作のジェフ・ヴァンダミアの小説は3部作で、“アレックス・ガーランド”監督はその構成を気にせずに1作目をそのまま1作品に仕上げたそうですが、大正解だったと思います。

それにしても“アレックス・ガーランド”監督は『エクス・マキナ』に続いて、またダンス的な不思議なモーションを挿入してきますね。好きなのかな。

私の中では、“オスカー・アイザック”演じるケインは、もう一人の自分と出会ったとき、『エクス・マキナ』よろしくノリノリでダンスしたと勝手に思ってます。それがビデオカメラに映っていなくて残念だな…(謎の失望)。

↑アレックス・ガーランド監督デビュー作の『エクス・マキナ』。観ていない人はぜひ。

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