世界よりも強く
映画『世界よりも強く』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Mais Forte que o Mundo: A História de José Aldo 
製作国:ブラジル 
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:アフォンソ・ポイアルチ 

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★

あらすじ

ブラジル北部のアマゾナス州にあるマナウスの貧しいスラムで、ジョゼ・アルドは酒と暴力に染まった父親との関係に悩みながら、日々を過ごしていた。そんな彼が負の感情を発散する矛先は格闘技だった。そして、いつしかジョゼ・アルドは総合格闘技の世界に身を投じて、激動の人生を歩んでいく。

世界最強の男“ジョゼ・アルド”

私はなにぶんスポーツに関する知見が乏しい人間であり、ましてや格闘技となると“ちんぷんかんぷん”です。柔道とレスリングは見た目が違うから判別はできるけど、内容がどう違っているのかよくわかっていない。テコンドーとムエタイの違いもわからない。サバットはアクションの名前か何かだと思っていた。そんなレベルです。とりあえず殴ったり蹴ったり押し倒したりするものは皆同じに見えてくる…。映画でアクションシーンを観ても「このアクションはあの格闘技のものだ!」とは到底認識できない素人です。

そういう私のような格闘技音痴の人間にとって「総合格闘技(MMA)」はわかりやすいのかわかりにくいのかが釈然としない格闘技です。命にダイレクトに関わる行動でない限り、何でもありってことでいい…のですよね?

その総合格闘技界で最強の男として知られるのが“ジョゼ・アルド”というブラジル人。愛称は「スカーフェイス」。例によって例のごとく、私は名前を知りもしなかったのですが、その輝かしいサクセスストーリーと圧倒的強さから非常に人気の高い人物だそうで。

その“ジョゼ・アルド”の伝記映画が本作『世界よりも強く』。ブラジル出身のアフォンソ・ポイアルチ監督によって製作されたブラジル映画です。

なにより非常に真っ当な伝記映画に仕上がっていながら、変わった演出もあったりと伝記映画だからといって地味になることなく楽しませてくれます。肝心の格闘シーンもビジュアル重視でカッコよさが際立つ映像となっており、格闘技をよく知らない私みたいな人間でも難しく考えず観賞できます。

キックボクサー リジェネレーションのようなエンタメ寄りの格闘技映画も良いですが、本作のような格闘技映画も味が変わって良いものです。格闘技ファンもとい格闘技映画ファンは、とりあえず観ておいて損はないのではないでしょうか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





人間バッティングから始まる人生

本作は伝記映画でありながら結構映像面は豪華な作品であり、個人的には案外退屈せずに楽しめました。

マナウスのスラム街で車から板を出して通行人を打つ「人間バッティング」に興じているジョゼと仲間の不良たち。これはブラジルの出来の悪い若者にとってよくやる非行なのだろうか…。そんなジョゼの悩みの種は父親。父の職場に行ってみればトイレの設置を大胆にミスして上司に怒られまくる残念な姿を目撃(あれは父親だけの責任でもない気がしますが…)。これだけなら「うっかりパパ」で笑ってすますのでもいいんですが、なんとこのオヤジは妻に暴力を振るう飲んだくれでもあったからさあ大変。さらに、ジョゼはブラジリアン柔術を共に学ぶ仲間であるいけすかない男との間に女関係で揉め事を起こし、ますます不安定な気分。

そんななか、ついに父が再び暴力を振るい、ジョゼの感情が爆発。再び「人間バッティング」へGO。いけすかない男を叩き倒します。ここからの車逃走シーンは、なかなか派手で伝記映画にしてはスリルある映像でした。ファヴェーラと呼ばれるスラム街でのカーアクションはいかにもブラジルらしくて良かったです。

そして、この後の格闘シーンは雨降るなかでのスローを用いた印象的な場面。ここからジョゼの長い長い自分との精神的戦いが始まることを暗示させます。

本作はこのように格闘シーンをリアルというよりもジョゼの心を示す心理描写として象徴的に表現することに力を入れている感じでしたね。ただ、まさかアニメーションを挿入してくるとは思わなかったけど…。

世界よりも強く

父から学んだ転び方

本作はジョゼと父の確執を物語の基本軸としており、シーンに父親が絡んでくるとドラマ性がグッと増して楽しいです。

逆に父親が絡んでこないとやや物語が散らかる感じがして個人的にはイマイチでした。ビビアネとのロマンスも本筋から逸れる感じで…。ただ、あの対戦イチャイチャからの結婚指輪のシーンは、総合格闘技だからできるオシャレなプロポーズだったのでなんか良し。あと、掃除シーンとか訓練シーンとか、ブラジルらしい軽快な音楽でテンポよく話が進むときはすんなり観れます。

話を父との確執に戻します。

「人生で最も重要なことは転び方を学ぶことだ」

母に暴力を振るった直後の父が言い放った、まるで暴力さえも仕方がないと言うかのようなこの言葉はジョゼを怒らせます。ここでジョゼがブラジリアン柔術で父親をKO!とかなら話は早いのですが、ジョゼは父親を絶対に殴りません。というか殴れません。殴ったら父と同じになってしまうのですから。

その怒りの全てを総合格闘技にぶつけていき、最終的に父から学んだ転び方の精神でもって立ち上がり、自分との精神的戦いに勝利してチャンピオンになるという展開は、良くも悪くも綺麗にオチていたと思います。

ただ、ジョゼの見た目がスラム時代から出来上がり過ぎていて、肉体的に成長していく感じがないのがやや残念でしたが…。

あとは願わくば、もっと全体の時間を短くして、ドラマを濃くしてほしかったところですが、ジョゼ・アルドはそんなので収まる男じゃないのかもしれない。UFCフェザー級チャンピオンとなったジョゼはこのあと7回防衛に成功し、1度敗北するも、すぐに王座を奪還しており、まだまだドラマを作っていきそうな人です。きっと伝記映画もこれで終わりじゃないのでしょうね。