アフターマス
映画『アフターマス』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Aftermath 
製作国:アメリカ 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年9月16日 
監督:エリオット・レスター 

【個人的評価】
 星 4/10 ★★★★

あらすじ

建設現場の現場監督ローマンは、数カ月ぶりに帰ってくる妻と身重の娘を迎えに空港へ向かう。しかし、妻と娘が乗った飛行機が空中で衝突事故を起こしたという衝撃の事実を聞かされる。家族を奪われてやり場のない憤りを感じるローマン。一方で事故に大きく関わっていた航空管制官のジェイクは憔悴していた。

ネタバレなし感想

喪失感と戦う男たちの物語

ボディビルダー、俳優、殺人アンドロイド、特殊部隊の軍人、知事…いろんな職業に転職してきた“アーノルド・シュワルツェネッガー”(現実とフィクションが混同している文章)。

そんな彼もさすがに年には敵わないのか、最近は鍛え抜かれた肉体を封印して、ホームグラウンドのアクション映画ではない作品への出演を開拓しているようです。もう70歳であり、今更感は否めませんが…。

その“アーノルド・シュワルツェネッガー”がヒューマン・ドラマで主演!ということで話題になっている映画、本作『アフターマス』

この映画は、2002年7月にドイツ上空で実際に起きた「ユーバーリンゲン空中衝突事故」と、その後に発生した事件を基にした実話ドラマ。史実なので知っている人はもちろん、「ユーバーリンゲン空中衝突事故」と検索すれば、オチを含めた展開がわかります。でも、ドラマはじゅうぶん楽しめるはずです。

本作は日本の宣伝の段階で、嘘、というか誤解を招きかねないことがあって、一応、それに言及しておくべき気がするので書いておきます。

まず、公式サイトなどでキャッチコピーとして「上空で何が起こったのか?」と書かれており、まるで事故の真相を追求していくのが本作のメインのような印象を与えますが、それは違います。実際は、事故後の関係者のその後を追いかけた極めて個人的なスケールのドラマです。なので、事故シーンすら直接的には描かれませんし、結局、なぜ事故が起こったのかということは具体的には観客にも提示されません。ハドソン川の奇跡みたいな映画ではないということですね。

そして、もうひとつは主演の“アーノルド・シュワルツェネッガー”。おそらくこの映画を観ようと思った人の半分くらいは“アーノルド・シュワルツェネッガー”目当てかもしれないですが、残念なことに宣伝でデカデカと出ているほど“アーノルド・シュワルツェネッガー”メインなドラマではありません。そもそも本作は、“アーノルド・シュワルツェネッガー”演じる被害者遺族の男と、“スクート・マクネイリー”演じる事故に関わった航空管制官の男の二人の物語が交互に描かれる構成になっています。だからダブル主人公の作品といっていいでしょう。

人間の内なる感情の変化を見つめるようなドラマがしんみりと展開される本作で、“アーノルド・シュワルツェネッガー”含めて役者人がどんな演技を見せるのか。気になる人はぜひ鑑賞してみてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

人生を奪われた人間

本作の題材となった「ユーバーリンゲン空中衝突事故」。航空機2機が空中で激突し、搭乗していた計71人全員が死亡…これだけでもじゅうぶんすぎる凄惨さですが、さらにそれから2年後、遺族のひとりが事件に関わった管制官を殺害するという衝撃的展開の連続は、言葉に尽くしがたいものがあります。そんな一連の出来事は、こんなことを言うのも不謹慎ですが、映画の題材としては非常に適しているともいえます。それこそ、内容は全然違いますが、とある痛ましい実際の事件について、登場人物の感情変化を丁寧に描くことで、高評価を獲得したベネット・ミラー監督の『フォックスキャッチャー』(2014年)のような映画もあるわけですから。

本作は、とくに航空管制官ジェイクの、事故前、事故直後、事故から少し時間がたった後、事故から数年後…この時間経過による感情変化の過程はとてもよく表現されていたと思います。事故直後は家に帰っても憔悴を隠しきれていないジェイク。グチャグチャの料理をだしてしまうなど行動からもそれは伝わりますし、“KILLER”だ“MURDER”だのと家に落書きされて銃やナイフを買う姿からは狂気も垣間見えます。大切な妻と息子も離れていき、職も名前さえも失う…彼のやってしまったことの責任は重いですけど、同じく事故で人生を奪われた人間とも言えるでしょう。演じた“スクート・マクネイリー”は素晴らしい熱演でした。ギャレス・エドワーズ監督の『モンスターズ/地球外生命体』(2010年)で主演していた人だったんですね。気づかなかった…。

殺し方がプロだった

一方の遺族で最終的に復讐してしまうローマン。彼は…その、“アーノルド・シュワルツェネッガー”でした…。これは演技が下手なのか、それともそういう演技でいけと指導されたのか、時間経過でも全然感情の起伏がない。幻覚的な夢は見るのですけど。結局、彼がなんで殺人に至ったのか、その過程は描かれず、殺害シーンがとにかく唐突。

ちなみにさすが映画史上最も人を殺した俳優なだけあって、刺殺するシーンの「首にナイフグサッ!」の場面は勢いありましたね。でも、そんな殺しに手馴れている感じでやっちゃったら、思いっきり殺意あるみたいになるんですけど(実際の裁判では心神耗弱が認められました)。シュワルツェネッガーさん、確かにカッコいい殺し方だったけど、そこはいつものアクションやったらダメだよ…。

殺し場面はシュワルツェネッガーだから仕方がないとして(その妥協もどうかと思うけど)、心神耗弱で感情に起伏がないのはそういうキャラだからという理由だとしても、じゃあ、代わりに感情を暗示するようなメタファーとなる演出も入れ込むとかほかにできたろうに、そういう補助もない。シュワルツェネッガーの演技力に製作陣は絶大な信頼でも寄せているのかもしれませんが、ちょっときつかったですね。

本作だけ見ると、ジェイクは人間味溢れる人だから精神を保っていて、ローマンは人間味がない(もしくは精神がおかしい)から狂気に堕ちたような、すごく一方的なステレオタイプなキャラ設定になってしまっており、そこは史実を扱うにはよろしくないでしょう。

アフターマス

狙いすぎな演出

ただ、本作はキャラ設定や演技の面以外でも、ドラマ演出がわざとらしすぎるのが気になって気になって、ダメでした。

例えば、序盤、ローマンが家族を迎えに空港に行くとひとりで部屋に通されて事故の説明をされる場面。部屋に行く廊下ですれ違った男や隣の壁をドンドン叩く音から察するに、他の事故犠牲者を待っていた人も同じように対応されたらしい様子。でも、あんなひとりひとりに個別に説明することあるだろうか? 事故が起きたら空港職員なんてパニックで大忙しです。そんな時間も労力もないはずでしょう。

また、ローマンが事故現場に来る場面も、オカシすぎて。現場検証している真っ最中で、遺体さえまだそのままな状態なのに、遺族が立ち入るのは明らかに変ですし、まず真っ先に片づけるべき遺体を放置しているのは意味不明でしょう。家族の亡骸を抱きしめるローマンの“泣かせる”絵面が欲しかっただけにしか思えません。

極めつけはナイフでジェイクを刺したあとのローマンの行動。「怖がるな」と語りかけながら(余計に怖いよ!)、怯える妻と息子が座るソファに自分も家族の写真を片手に座りこむローマン。妻と子を失った男と、夫を失った妻と子の、重なるようで重ならない歪なパズルピースみたいな構図を醸し出したいのはわかるけど…。なんだろう、製作陣の「ドヤ顔」が透けて見える…。

ラストもね、復讐の連鎖の虚しさを描くにしたって、狙いすぎです。史実をこういうベタなドラマにすり替えるのは個人的にはあまり好きじゃないですね。

そんな過剰なドラマ演出ばかりが目立つ本作ですが、嘘っぽく見えて実は本当のシーンもあって。それは、ジェイクが事故機を担当しているまさにそのときの管制室の場面。私の知っている航空管制業務のイメージからすると本作の場合は人がやたら少ないので、ああ、たぶんこの管制官に責任があるという印象を与えるためなんだろうと思っていたんです、最初は。でも、調べたら、事故当時、管制していた管制官はただ一人だけだったそうですね。なんかますます管制官に同情したくなる…。

余計な誘導指示で上手くいっていない、なんとも惜しい映画でした。

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