殿、利息でござる!
原題:殿、利息でござる!
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年5月14日
監督:中村義洋

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★
 
あらすじ

江戸中期、寂れ果てた宿場町の吉岡宿の人々は重税を課す仙台藩に苦しめられていた。そんな町の行く末を案じていた穀田屋十三郎は、町一番の知恵者である茶師・菅原屋篤平治から、宿場を復興するためのある妙案を耳にする。それは藩に大金を貸し付けて利息を手に入れるというものだった。

欲張りはいけないでござる!

金融がらみで「利息」で儲かりますよと言われたら、私は真っ先に疑うのですが、きっと「利息」で得した経験がないからなのでしょう。

それくらい「利息」といえば市民を苦しめるイメージが強いし、企業や国でさえ頭を悩ませるものです。

その「利息」を逆に使いこなした江戸中期の民衆の実話を描く映画『殿、利息でござる!』。

重税を課すお上のやり方を逆に利用しようと、民衆のなかから藩に大金を貸し付けて利息を巻き上げる一部グループが現れ、やがて国を裏で牛耳っていく巨大組織へと成長していく…そう、これが「ヤミ金」の始まりであった…そんな話じゃありません

原作は歴史家・磯田道史による評伝で、タイトルは「無私の日本人」。“無私”というだけって、簡単に言ってしまえば「私利私欲で人を苦しめるのはよくないよ」という極めて真っ当なメッセージのある人情時代劇です。

貧乏な町民が逆転劇で大儲けみたいなお話しでもなく、いかにしてお金を手に入れるかという過程を緻密に描くことが主でもない。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』とは同じお金がらみの話でも主軸は正反対といっていいと思います。


本作をてがける中村義洋監督は、ホラー・サスペンス・ミステリーといったジャンルが近年の印象でしたが、本作で時代劇初挑戦。どんなジャンルでも話をベターにまとめる手腕があり、今回もそつなく綺麗に人情時代劇を描いています。

他に初挑戦といえば羽生結弦選手が出演していることも一応挙げておくべきなのだろうか。殿さま役です。せっかくなら織田信成選手も出して殿対決にしたら…いや、誰も得はしないか…。映画の舞台である仙台つながりのゲスト出演だからこれでいいのだけれども。

金より人情な、温かい映画です。





↓ここからネタバレが含まれます↓




そんな正論を言われても…はい、その通りです

全体の感想としてざっくりいうと、なんか道徳の授業の教材みたいな映画でした。

綺麗な人情時代劇です。真っ当なメッセージ性といい、決して悪い映画ではないのはもちろんです。万人におすすめできる作品だと思います。俳優陣も地味な役柄ながら魅力をだしていました。

でも、個人的には綺麗すぎるかなと感じました。もっと、コメディを活かした方向性でも良かったんじゃないかと。

濱田岳のナレーションがところどころ挿入される本作、とても理解を助けてくれるのでよいのですが、映画というよりはTVの歴史番組のようです。確かに現代人にわからない当時の時代背景や社会の仕組みがたくさんありますから説明は必須。でも、ナレーションだけっていうのも芸がない。このへん『マネー・ショート 華麗なる大逆転』はコメディを活かして上手く見せていたなと改めて感じます。

そして、私には本作最大の欠点に映りましたが、妻夫木聡演じる浅野屋甚内があまりにも完全無欠の超善人なため、正論すぎて映画に可愛げがないのもなんだかなぁという感じ。それもあって、松田龍平演じる萱場杢がすごく悪すぎる奴に相対的に強調されてしまい…でも、萱場をギャフンと言わせる展開はないので消化不良。

結局のところ、利息作戦にのった町の面々も浅野屋の“正しすぎる”あり方に、半ば流されるかたちになったともいえ、お金も人情で集めましたという勢いまかせ部分が目立ってしまっています。

あと、フィギュアスケートもできそうな殿さまのあの関わり方は映画としてはよかったのか? 酒名を提案され、無事酒屋は繁盛したわけなので結果オーライですが…この殿さまの行動、下手したらただの“良きこと”の押し売りになりかねないです。やっぱり十三郎たちは良き人に流されているだけに見える…。
殿、利息でござる!
根本的な話、映画で正論を直球で描くのはどうなのか…。

「戦争はよくありません」
「暴力はいけません」
「いじめはやめましょう」
「私欲は控えましょう」

⇒「はい、その通りです」と言うしかない。なにも映画で語らなくとも…と思うのは私だけでしょうか。

もちろん、正論をテーマにするのはいいんですが、それを言葉で単刀直入に語るのは違う気がします。それに、浅野屋では父からの教え「人は人を苦しめてはならぬ」が継がれていましたが、正論だって人を苦しめることがあるだろうに…。

その正論をコメディで上手くアレンジすれば、真面目一辺倒なだけではない作品になったのかもしれません。役者陣も表情など時折コメディ感をそれぞれ頑張って発揮していましたから、そこをもっと引き出してほしかったところです。

ちなみにラストに穀田屋酒店の現在の姿が映し出されます。きっと映画製作者は良いシーンとしてあの映像を加えたのだと思いますが、なんか人口減少でさびれた町にひっそりとたたずむ小さな店という感じで、なんだか切なくなりました。「人情」だけでは時代の流れにのることはできないのかな…。