Homesick
映画『妹の体温』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:De nærmeste(Homesick)
製作国:ノルウェー
製作年:2015年
日本では劇場未公開:2016年にDVDスルー
監督:アンネ・セウィツキー

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

あらすじ

ノルウェー・オスロに暮らすシャルロッテは、充実した日々を送っているようにみえるが、自分に無関心な母親とアルコール依存症の父親との冷め切った家族関係に心を痛めていた。そんな時、シャルロッテは会ったことがなかった異父兄を訪ねる。兄との交流を深めるうち、2人は徐々に引かれ合い体を重ねていってしまうが…。

「文芸エロス」って何?

「文芸エロス」というジャンルがあるそうですが、これほど扱いがぞんざいな分野も他にないでしょう。

まあ、それも無理はないとは思いますが、「文芸エロス」はいわゆる性行為を直接描写することがメインの「官能(ポルノ)」とは全く違います。なので「文芸エロス」に性的欲求を満たす役割を求めても「それは他所でお願いします」と言われるだけです。私なりの表現で説明するなら、「文芸エロス」は性的な要素や表現がストーリーの軸や鍵になったり、演出的に効果的に効いてくるような文学的作品…といったところしょうか。つまり、あくまでドラマがメインなのです。

ゆえに「文芸エロス」はすごく売り込みづらい映画です。となると「官能(ポルノ)」と抱き合わせ的に、もしくはミスリードさせるような方法で宣伝するのが関の山だったりします。結局、「官能(ポルノ)」を期待していた人にとってはハズレみたいな作品に思われていたりも…。でも、逆に文学的映画が好きな人には隠れた名作になりうるかもしれません。

本作『妹の体温』という邦題のノルウェー映画は、邦題がもろにポルノチックな名称になっている、残念な扱いの「文芸エロス」映画です。しかし、中身はしっかりしたドラマが詰まっています。「近親相姦による禁断の愛」みたいなドロドロした展開を望んでも肩透かしをくらうだけです(もちろん、性行為シーンはあるのですが)。

実際に本作は第88回米アカデミー賞の外国映画部門においてノルウェーの推薦作候補のひとつに選ばれたりと、ドラマが評価されています。

内容としては女性の生き方を問う映画であり、似た近年の作品でいえば『ブルックリン』が挙げられるでしょう。しかも、『妹の体温』の英題は「Homesick」。英題の方がこの映画のテーマを捉えています。


女性のほうが本作に感情移入しやすいかもしれません。






↓ここからネタバレが含まれます↓





迷子の白鳥は踊るだけ

現代の女性の生き方は、一昔前と比べてはるかに多様で自由になったということは誰もが実感するところでしょう(もちろん、まだまだな部分も残っているけれど)。

ではその変化は女性にとって人生の豊かさや楽しさにつながっているかというと、正直言って全ての女性はそう感じていないとも思います。“女性にまつわる社会の変化”に上手く乗れた女性はハッピーな人生を送れているでしょうが、そうじゃない女性もいるはずです。仕事・家庭・恋愛・趣味どちらに肩入れすればいいかわからず、中途半端になったりする。自由ということは、裏返せば道に迷いやすいということです。

本作の主人公、シャルロッテはまさに女性特有の「道に迷った」状態にある人物でした。家にいない母と酒に溺れる父の冷めきった家庭で育ち、仕事にも目標が持てず、恋人との関係も惰性で続いているのみ。

それでもシャルロッテは一見するだけでは普通に暮らしているように見えます。それはバレエ教室の子どもたちに彼女自身が語る「失敗したときは平気な顔して踊り続ければミスしたとは思われない」という言葉どおり、まさに彼女はそういう生き方で誤魔化していたからでした。

しかし、明確な人生の道を進んでいる女性が周囲に現れていきます。母は文学とフェミニズムを学び、博士学をとり、勉学と仕事一筋の人生。友人のマルテは、結婚して妊娠して母親一筋の人生。輝く2人の女性を前に、鬱屈したシャルロッテの心情が徐々に露出していきます。

そんな状況下で出会ったのが「兄・ヘンリック」。自分と原点を共有する兄との(肉体的なものも含む)交流は、シャルロッテにとって人生をもう一度やり直させてくれるかのような感覚だったのでしょう。映画の終わり、シャルロッテの新たな人生がスタートします。最後の兄とのハグは、バレエ教室の子どもたちのハグのシーンと重なります。
Homesick

いかにも北欧映画らしい淡々としたドラマと寒色な環境が織りなす物語は、退屈に感じがちですが、本作は映画的なシーンも多いです。わかりやすいのが音楽の使い方ですが、映像的な部分では例えばプールで水中に潜り合うシャルロッテとヘンリックの2人がまるで母のお腹のなかの胎児を思わせる演出でした。

苦言をいうなら、シャルロッテの兄との関係がバレるなどそれまでの人生の崩壊後から、シャルロッテが新たな人生を歩み出す展開に至るまでの間の描写が乏しい気がしましたが…。

想像以上に現代的な女性の映画でした。