太陽
原題:太陽
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年4月23日
監督:入江悠

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★
 
あらすじ

21世紀初頭、ウイルスによる人口激減から生き残った人類は、太陽の光に弱くなり夜しか生きられないものの進化した新人類「ノクス」と、ノクスに管理されながら貧しく生きる旧人類「キュリオ」という2つの階層に分かれて生活していた。ある事件のせいでノクスから制裁を受けていたとある村で暮らす奥寺鉄彦は、世の中への不満をため込んでいたが…。

俺はアリジゴクになりたくない

「アリジゴク」という昆虫を知っているでしょうか。

大きな顎を持った太った芋虫のような醜い姿をしており、砂地にすり鉢状のくぼみを作って暮らし、落ちてきた獲物を食べるという見た目どおりの“どん底”暮らしをしています。そのアリジゴクも実は幼虫であり、成長すると「ウスバカゲロウ」という全く違う姿の昆虫に変身します。成虫は翅を手に入れ、幼虫時代とは比べものにもならない身体能力と自由な生活が可能ですが、夜行性であり寿命も短いという影も抱えている…そんな生き物です。

本作『太陽』を観た私は真っ先に「アリジゴク(ウスバカゲロウ)」を連想しました。

この映画は独自の世界観を有しているSFです。簡単に説明すると、旧人類「キュリオ」と新人類「ノクス」の2つに人間は分断されて社会が構成されています。「キュリオ」は年寄りも多く、ノクスに管理されて田舎のような村で貧しく生きていますが、「ノクス」は太陽の光に弱く夜しか活動できませんが、身体的能力に優れており、進んだ科学と社会のもとで裕福に暮らしている…という2つの存在。

「キュリオ」自身も「アリジゴク」っぽいですが、「キュリオ」のコミュニティもまた「アリジゴク」の巣のような束縛感があるように感じます。

映画の主人公は「ノクス」に憧れる「キュリオ」の少年。

本作の入江悠監督は過去に手がけた『SR サイタマノラッパー』シリーズでも、閉鎖的なコミュニティに嫌気がさすも離れることのできない主人公を描いており、これが共通した作家性なのかもしれません。それでも、これまでの過去作に多くみられた音楽的要素は中心にはなく、さらには原作は舞台ですし、なかなか斬新な挑戦です。


SFといっても独自の専門用語は「キュリオ」と「ノクス」の2つのみ。SFを普段観ない人でも入りやすいと思います。珍しい日本製ディストピアSF、変わりダネとして観てみては?





↓ここからネタバレが含まれます↓ 




ディストピアSFとしては惜しい

あまり予算をかけられない日本の映画界でディストピアSFの世界をつくるのは大変なはず。しかし、本作はロケーションと撮影センスのおかげもあって、一定の説得力があります。明らかに日本らしい田舎の山村である「キュリオ」も、どこか私たちの知っているモノとは違う異世界感が漂っていました。

願わくば、映画の設定上で最悪のディストピアということになっている四国を、画面上のVTRではなく、ちゃんと描いて見せてほしかったかな。

一方で、映像は綺麗でも、SF設定の描写に隙があるのが気になります。とくに「ノクス」が太陽に弱いという設定。太陽光がダメなのはわかるけど、強い光もダメなのでしょうか。カメラのフラッシュに狼狽えるシーンがありましたが、そのわりには劇中の「ノクス」が暮らす施設は非常に明るいんですよね。診察台の明かりとか、部屋全体に映像を投射?するような部屋があったりと、強い光が身近にあるのは違和感です。

長回しが多いのが本作の特徴でもありますが、全ての長回しが効果的に活きていたとも残念ながら思えなかったのも、うーん。「ノクス」の森繁が外で手錠をかけられてしまい、日の出で死にそうになるシーンも、布をかければいいのでは?というツッコミが頭に一度浮かぶと、急に茶番に見えてしまう。終盤の修羅場シーンも、長回しにする必要性は…あったのかな?

また、「キュリオ」の閉鎖的なコミュニティの感じを出すのに、レイプとか集団リンチとか扇情的なわかりやすい描写ばかりでなく、心理的な窮屈さを示す演出ももっと増やしてほしかったです。主人公の鉄彦を演じた神木隆之介も、「キュリオ」が抱える感情的不安定さを表現しているのはわかりますが、オーバーアクトすぎる部分がどうしても目立つ。さすがに「ワイヤーァァァ」と叫びながら走るのは変でしょう…。
太陽
「キュリオ」から「ノクス」に転身して豹変する結を演じた門脇麦や、役職どおり「キュリオ」と「ノクス」の境にいる森繁を演じた古川雄輝はキャラにハマっており良かったです。でも一番は生田草一を演じた古舘寛治でした。

SF設定や登場人物・場面描写の不安定感には目をつぶるとすれば、日本らしいディストピアSFとしてかなり潜在的な面白さを内包する映画だったのも事実。もっと小さいスケールの世界のほうが良かったかもしれないですね。