人生はローリングストーン
原題:The End of the Tour 
製作国:アメリカ 
製作年:2015年 
日本では劇場未公開:2016年にDVDスルー 
監督:ジェームズ・ポンソルト 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

ローリングストーン誌の若手記者として働くリプスキーは、気鋭作家デヴィッド・フォスター・ウォレスの作品に感銘を受け、密着取材を申し込む。ウォレスの自宅を訪ね、新刊のブックツアーに同行していく道中、会話を重ねて打ち解け合っていくように見えた二人だったが…。


人生の先輩は語る

憧れの職業に念願かなってなれたけど、なんか思っていたのと違う…。
理想のあの人と一緒に働けるようになったけど、こういう人だったのか…。

そんな経験ないでしょうか。

仕事じゃなくても、結婚とか友情とかの人間関係でもいいでしょう。

つまり、自分の人生の目標地点として設定していた場所の“着く前の想像の姿”と、“着いてからの現実の姿”の差に困惑する。こういう体験は10代の少年少女には理解しづらいでしょうが、ある程度年齢を重ねた人ならわかると思います。

この身に染みる切なさを静かに描いた隠れた名作が、日本では劇場公開されることなく、ひっそりとDVDスルーで発売されています。それが本作『人生はローリングストーン』です。

映画批評サイト「RottenTomatoes」で91%の高評価を獲得している本作ですが、日本では劇場公開されないのは残念です。でも、とても地味な会話が続くだけの映画なので一般受けはしないでしょうから、仕方がないのかな…。

本作は実在した作家デヴィッド・フォスター・ウォレスを題材にした映画です。文学に疎い私は彼のことを全く知らなかったのですけど、私の調べた限りでは、あまり日本では認知度は低いように感じます。日本で翻訳されているのは「ヴィトゲンシュタインの箒」という作品だけのようです。


ウォレスの著作で一番有名なのは「Infinite Jest」という作品で、これが1000ページを超える大作。ゆえに読破するのが大変で、アメリカ国内ではいわゆる「頭の良い人が読む本」みたいなイメージを持たれているらしいです。結果、ウォレスは知的な文学者というアイコンを抱えていたようで、その彼の苦悩が本作の大きな棘となります。

本作の物語は、ローリングストーン誌の若手記者がウォレスに密着取材したという実話から作られたものであり、その際の録音テープに記録されたセリフがそのまま役者の言葉として登場しているとのこと。なので、かなりリアルなタイプの伝記映画といえるでしょう。

この若手記者は実は作家志望。作家の第一線で活躍する憧れの存在、いわば人生の先輩であるウォレスに出会った彼は、ある現実を目にし、まさに“差”に困惑することに…。

邦題はちょっとどうなのという感じですが、原題は「The End of the Tour」。示す意味は…観ればわかるでしょう。

静かな良作を観たい方はぜひおすすめです。





↓ここからネタバレが含まれます↓




俺みたいになりたいか?

よく「好きなことを仕事にできるようになるには大変だよ」なんて言います。それを描く映画はたくさんあります。しかし、本作の良さはそれより先の「好きなことを仕事にできるようになっても大変なんだ」ということを描いている点にあると感じました。

リプスキーの苦悩は若者視点でもわかりやすいです。夢を純粋に追いかけず、とりあえず食っていくために記者という職業に妥協する。でも、作家の夢に中途半端に手を出してはいる…。この諦めきれない感じ、私もわかります。恋人にフラストレーションをぶつける(でもぶつけきれていない)ところが、実に男の残念なプライドが滲み出ていてなんとも。

一方のウォレスの苦悩。これも私はなんかわかる。もちろん、とてもじゃないが私は夢を達成した理想的な人生を送っているとはいえないのですが。でも、ウォレスの苦悩は何一つ特殊なものはないわけです。

「誰かと人生を共有できたらいいのにと思う」と発言するウォレスは、頂点に立ったものゆえの孤独さを抱えています。そして、酒、ドラッグ、女、エンターテイメント…あらゆる誘惑に逃げそうになり、しかし、そんな安易な逃避が許せない自分もいる。このアンビバレンス。また、脚光に溺れたくないので、作家なのに「俺は作家だ」なんて言うのは恥ずかしい。この自己否定。さらには、バンダナをつけている理由を聞かれ、「トレードマークと思われるのは嫌だ」と過剰反応してしまう。この他人の評価への恐怖。こちらも男っぽいプライドの副作用です。

なので、リプスキーとウォレスは立ち位置は違えど、似ています。だから、最後は気持ちを共有できたんじゃないでしょうか。リプスキーの「大勢から評価されているのに満足できない?」に対するウォレスの「俺みたいになりたい?」は、人生の永遠の問いな気がする

ウォレスは結局、自ら死を選ぶわけですが、彼はエッセイストとしても活躍していて、自他の分析をよく行っていたようです。きっと、自己分析に押しつぶされてしまったのでしょう。

人生はローリングストーン

基本ふたりしかいない役者陣は良かったです。とくにウォレスを演じたジェイソン・シーゲルは、これまでアパトー作品によくでるコメディ俳優みたいな印象しかなかったので新鮮でした。ものすごく見た目がウォレス本人に瓜二つに似せているので、ぜひ本人の姿をネット検索してみてください。

ジェームズ・ポンソルト監督の作品は初めて観ましたがいいですね。過去作の日本語訳版を強く望みます。