世界から猫が消えたなら
原題:世界から猫が消えたなら
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年5月14日
監督:永井聡

【個人的評価】
 星 3/10 ★★★
 
あらすじ

映画を見るのが好きで、猫と暮らす30歳の郵便配達員の青年。ある日、突然倒れてしまい医者から余命わずかと宣告されてしまう。呆然自失で家に戻った彼の前に、自分とそっくりの青年が現れ、大切なものと引き換えに1日の命を与えると提案してくる。


猫に小判…価値観は人それぞれ

世界から猫が消えてしまったらどうなるでしょうか…。まず、犬の負担が増えるな…、いや、ペットの問題だけじゃなく、コスプレは猫耳ではなくウサギ耳が主流になるし、猫キャラの「ドラえもん」や「妖怪ウォッチ」といった国民的エンターテイメントも生まれない! まてよ、ネズミが大繁殖しペストが大流行して人類存亡の危機では? それどころか、猫を崇拝するエジプト文明が発展せず、今の文明社会も存在しない!? 結構、ヤバい気がする…。

妄想が捗りますが、本作『世界から猫が消えたなら』は全くこれっぽちもそういうお話しではないので、冒頭の妄想文章は一切忘れてください

本作はこれでもかというほど「泣ける!」というのを売りに宣伝されまくっていた映画でした。内容はいわゆる「難病モノ」。加えて、大切なものと引き換えに寿命を1日延ばすと誘惑してくる“悪魔”が登場する「セカイ系」っぽい要素も。これだけで「勘弁してほしい」と嫌がる人もいるでしょうが、世の中には「泣ける映画」を求める人も多いんです。猫に小判…価値観は人それぞれです。

私は本作で気になっていたのは、原作の川村元気という人物。この人、今の邦画界ではプロデューサーとして大活躍しており、今年も『君の名は。』、『怒り』、『何者』と個性豊かな作品を企画・プロデュースしてきました。本作を観終わったあとの感想としては、原作よりも企画・プロデュースのほうがいい仕事をしているなと思いましたが…。

原作もベストセラーだそうですが、読者の評価を見るとわりと賛否両論みたいで、人を選ぶ作品のようです。


これは単に「泣ける」タイプの作品が嫌だいう反発ではなく、「泣けなかった」とか「期待していたのと違った」という意見もあります。この原作の評価と同じものが、そのまま映画にも生じている感じです。映画だからこその良さもあるのですが。

ともあれ、合う合わないは個人差ありですから、観てみてはいかがでしょうか。主演の佐藤健は一人二役をこなしているので、ファンには嬉しい作品だと思います。





↓ここからネタバレが含まれます↓




「考えるな、感じろ」では良い映画は作れない

私は本作にイマイチのれませんでした。その一番の理由は単調だからな気がします。

本作の『世界から猫が消えたなら』というタイトル。なぜこんなタイトルなのかといえば、主人公の青年がたまたま猫を飼っていたからという理由に過ぎないです。犬を飼っていたら『世界から犬が消えたなら』だし、カブトムシを飼っていたら『世界からカブトムシが消えたなら』だったでしょう。物語上、とくに猫である意味はありません。結局、猫は消えませんでしたし。

こういう「それ自体に意味はないが、物語構成上の仕掛けとして機能するもの」を映画用語で「マクガフィン」といいますが、本作はこの「マクガフィン」が多すぎます。

「電話」、「映画」、「時計」が次々と消えていくのですが、あの扱いというか物語上の機能は基本は同じです。いずれもそれに関連する人間関係も消えてしまい、その過程でちっぽけな自分と世界が実は影響し合っていることに気付く。死にともなう自分が消えることの不安感の心情を描写したいという狙いはわかります。でも、劇中ではこれがかなり淡々としています。「電話」消える→オロオロ、「映画」消える→オロオロ、「時計」消える→オロオロの繰り返しで、結果が見え見えなので飽きてきます。

これはなによりも主人公に葛藤がなく、受け身すぎる点に問題ありです。終盤の悪魔に対しての「あなたは僕なんですね。」のセリフも「そりゃそうだろ!」という感じ。「セカイ系」としてつまらないです。せめて主人公が反発するみたいなわかりやすい展開があれば…。

タイムリミット感がないのも単調さに拍車をかけています。弱っていく描写がまったくないし、一方で脳に腫瘍があるというわりには走りまくっているなど、一言でいえばこの主人公、普通に元気です。これがどんどん衰弱していれば、大切なモノを消すという悪魔の提案にのってしまう気持ちも理解できるのですが…。

他にも本作は気になる点が多数あります。泣きポイントが、母からの手紙の朗読という、全く映画的でない演出というのも、映画にする意味なしです。また、滝の前で宮崎あおい演じる彼女が「生きてやる」と絶叫する場面は、唐突な登場のトムさんの死に観客が感情移入できないという問題があります。ただ、そこについては私はそれ以前に矛盾していると感じました。というのも本作の冒頭、脳腫瘍発覚のシーンで「あまりに深く絶望したとき、人は取り乱したりしないんだと僕は知った」というセリフがあるのです。じゃあ、取り乱している彼女はたいして深刻じゃないのかということにも…。登場人物の感情演出でさえ、 映画全体でぶれぶれなのが本作の雑さを物語っているのではないでしょうか。

世界から猫が消えたなら

数少ない本作の良いところといえば、役者の演技は良いし、とくに濱田岳の抑えながらも感情の機微を滲ませる演技は相変わらず上手い。あとは、電話や映画が消えるときの演出。店が変化していく感じが魔法っぽくてユニークでした。でも、時計が消えるときは凝った演出が抑え気味なのは残念。
 
個人的にも映画ファンとしては、主人公があんまり映画好きそうに見えないのが、一番気になってもやもやしましたが…。なんか彼女や友人に合わせてるだけな感じがあります。まあ、映画好きであって映画マニアではないということなのか…。

劇中で『燃えよドラゴン』の「考えるな、感じろ」というセリフが引用されてましたが、この映画自体、感じるまかせなことが多いのが欠点。その理屈では、良い映画は作れないということはわかりました。