リリーのすべて
原題:The Danish Girl
製作国:イギリス
製作年:2015年
日本公開日:2016年3月18日
監督:トム・フーパー

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 
あらすじ

1926年のデンマーク。風景画家のアイナー・ベルナーは、肖像画家の妻ゲルダに女性モデルの代役を頼まれたことをきっかけに、自身の内側に潜む女性の存在が目覚める。それ以来、「彼」は「リリー」という名の女性として過ごす時間が増えていく…。

リリーになっていく芸術を楽しむ

本作は、2010年に『英国王のスピーチ』がアカデミー作品賞を受賞したトム・フーパー監督の最新作です。

世界初の性別適合手術を受けた人物「リリー・エルベ」を題材とした、デヴィッド・エバーショフによる小説「The Danish Girl」を原作としています。この物語は史実が基になっているということです。ただし、史実とは異なる変更点等があるのですが…。

本作の一番の魅力は役者の演技でしょう。

リリー・エルベを演じたエディ・レッドメインが、『博士と彼女のセオリー』に続いて非常に難しい役に挑戦しており、見どころです。男性から女性へ変わっていくその瞬間はまるで芸術のようです。その点ではこの映画の見方は芸術鑑賞に近いのかもしれません。

ただ、その妻を演じたアリシア・ビカンダーも忘れてはいけません。この映画はアリシア・ビカンダー演じるゲルダ・ヴェゲネルというリリー・エルベの妻の物語といってもいいものです。アリシア・ビカンダーは第88回アカデミー賞で助演女優賞を受賞しました。この受賞については、主演ではなく助演なのはなぜ?という疑問もなくはないですけれども…。

LGBTを題材にした映画ですが、あまり気にせず、普通の恋愛映画として見てもいいと思います。





↓ここからネタバレが含まれます↓




映画が美化したこと

主人公となるリリーとゲルダが画家ということで、映画自体も芸術性を前面に出したデザインとなっています。

釘づけになるのは、やはり主役のリリーとゲルダでしょう。リリーという女性に変貌する難しい役を演じたエディ・レッドメインですが、もともと美形で女性っぽい顔つきなせいか女装してもそこまで驚きはありません。アリシア・ビカンダーも、ちょっと幼い顔をしているせいで(これはエディ・レッドメインも同じですが)、学生感が拭えない感じはあります。

そのぶん、二人は目線や仕草など繊細な演技と体を張ったヌードで勝負しています。

肖像画のなかのリリーは人気ですが、現実のリリーに居場所はない…。対して、ゲルダはリリーが魅力的になればなるほど、自分の居場所がなくなっていく…。

それぞれの葛藤を見事に表現してみせており、素直に凄いと思いました。正直言って、この映画の魅力はこの二人のパワーに大きく頼っていると言わざるを得ないほどです。
The Danish Girl
役者陣のみなぎるパワーの一方で、本作には最大の問題点があります。それは「美化し過ぎ」ということ。

史実のアイナーは、22歳でゲルダと結婚、30歳で女性として生活をするようにり、38歳頃にリリー・エルベと名乗るようになりました。そして、性転換手術を受けたのは48歳です。つまり、“完全に”リリーになるまでは20年以上の年月が実際には存在するのです。しかし、本作では時間の経年をしっかり描いていません。主役となる二人はいつまでも若々しいままです。

また、映画ではリリーとゲルダは最後まで関係を保ったように見えます。しかし、これも史実は少し違って、実際はリリーの手術後は離婚しています。というのも、当時のデンマークでは同性愛は犯罪になってしまうという法的な問題があったからです。離婚後、リリーはフランス人画家のクロード・ルジュンと恋に落ち、ゲルダはイタリアの将校で外交官の男性と再婚。ゲルダがリリーの死を知ったのは再婚相手と過ごしたモロッコにいたときだったそうです。

嫌味な見方をするのなら、これは美男美女の悲恋を描いた「誰にでも受けやすい」ラブストーリーにするための映画の嘘といえるでしょう。

映画として万人に見てもらうためには、これらの嘘は仕方がないのかもしれません。でも、やはり史実が題材になっているからこそ、その嘘に疑問や嫌悪が生じるのも理解できます。私も映画の「美化」のほうが気になってしまいました。

「LGBTを芸術品のように描いていいのか?」をどう受け止めるかによって、この映画の評価がどこまで上がるか決まるでしょう。

少なくとも、この映画を見ることでリリー・エルベという人間のすべてを知ることはできないと断言できます。