マネー・ショート 華麗なる大逆転
原題:The Big Short
製作国:アメリカ
製作年:2015年
日本公開日:2016年3月4日
監督:アダム・マッケイ

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★
 
あらすじ

2005年、金融トレーダーのマイケルは、住宅ローンを含む金融商品が債務不履行に陥る危険性を予測するが、全く相手にされなかった。そこである金融商品でウォール街に挑戦しようとする。時を同じくして他の男たちも行動にでていた…。

華麗なる3つの嘘

世界にとって欠かすことができないシステムがあったとします。
それが数年後に崩壊すると言われたら、信じますか?
さらに、システムが崩壊することにお金を投資しないかと誘われたら、どうでしょうか?

「信じらない」「不謹慎だ」「なぜ事前に防ごうとしないのか」…そうした言葉が聞こえてきそうです。

本作はそんな事態に直面した人間たち…具体的には、2008年に起きたリーマン・ショックを事前に予測した男たちを描いた映画です。第88回アカデミー賞で脚色賞を受賞もしました。

しかし、本作を見たとき、多くの人が想像していたものとは違うと困惑する可能性が高い映画でもあります。

その理由は、本作にある3つの嘘が原因でしょう。

①タイトルと映画の内容が全然違う
本作の邦題は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。とくに「華麗なる大逆転」という副題からは、起死回生の勝利!みたいな爽快なストーリーを想像しますが、全く違います。監督がアダム・マッケイということもあり、コメディなのかとも思いますが、そうでもない。笑えそうで笑えないのです。話は想像以上にシリアスというかやるせない雰囲気で終わります。私は『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)に近いと感じました。この邦題の「大逆転」は、全てがひっくり返ってメチャクチャになるということであり、「華麗なる」と合わせて皮肉的な意味として捉えたほうがいいです。そう考えると、私はこの邦題、案外合っていると思います。

②ポスターにある4人が活躍する話ではない
ポスターにカッコよく立つ4人。実は劇中で揃うことはありません。それどころか4人じゃないのです。正確には、「マイケル・バーリの1人」、「マーク・バウム&ジャレッド・ベネットの2人」、「チャーリー&ジェイミー&ベン・リカートの3人」の3つのグループが個別に活動していく構成になっています。このなかでもブラッド・ピット演じるベン・リカートという人物は、ちょっと外側視点で物語に介入します。これも混乱の一因です。

③金融業界の知識はある程度求められる
金融について何も知らない人が見ても、らくらくわかるエンターテイメント!…と言いたいところですが、やっぱり理解はしにくいです。確かに『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)のように、主人公たちが急にカメラに向かって話し出す「第4の壁」突破演出があったり、極端な説明シーンが挟まれたりと退屈にはならないのですが…。この「解説」には統一感がなく、個人的にはわかりづらい面も生じてしまっているなとも思いました。

せめて公式サイトの用語解説を見ておくぐらいはしたほうがいいかもしれません。さらに知りたくなった人は、第83回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』という映画がおすすめです。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』とは真逆の作品ですが、リーマンショック以降の顛末も含め、関係者の生々しい証言に怒りと失望がわきあがること間違いなしですし、理解もグッと深まります。


私はこの3つの嘘(というかわかりにくさ)を好意的に解釈しました。まるで金融業界の複雑さをメタ的に表現しているみたいだなと。

だからといって難しい映画ではありません。金融について無知な人が見ても問題ない映画です。劇中でも序盤にこんな言葉が引用されています。

何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ。

こう言われたら、知らない人も、知っていると思っている人も、見なきゃダメですね。





↓ここからネタバレが含まれます↓ 




糞なシステムに対抗するには

全く勧善懲悪ではなく、優越感も達成感もない本作。エンディングも、虚しさが漂っていました。なにしろこの事態を引き起こした金融関係機関のトップは何も罰せられていないどころか、利益だけ持ち逃げしているのですから。

さて金融関係機関のトップのアホどもはおいておいても、住宅バブル崩壊を予測し、莫大な利益を上げたマイケルたちの行為には賛否両論があるでしょう。

私は彼らを責めることはできないかなと思います。

劇中でも言っていますが、金融のシステムは「糞」でしかないわけです。本作では、その馬鹿になったシステムのなかではどうあがいても、せいぜいシステムの隙をついて利益を上げることくらいしかできないということが示されます。逆にこれだけできただけでも奇跡ではないでしょうか。

そして、この糞なシステムを暴くための方法も彼らは提示してくれています。それは「検証すること」。部屋を出ないマイケルは計算で、マークたちは現地調査で、チャーリーとジェイミーは有力なアドバイザーのベンに助けをもらいつつ、いずれも独自のやり方で行動していました。あの金融業界、そして私たちに足りなかったのはそれなのでしょう。
The Big Short
一方で、本作はマイケルたち主人公組に感情移入もしずらいようにしているところが面白いです。マイケルの奇怪行動はさすがにだれがみても変だと思ってしまいますし、一見すると感情移入できそうな怒りに燃えるマークも空気の読めない性格で「あれっ、この人で大丈夫か」という安易に同調できない気分になります(スティーブ・カレルを配役したのが絶妙です)。実は史実に基づくのであれば一番感情移入できるのはチャーリーとジェイミーの2人のはずなのです。なぜなら、リーマン・ショック以降、この2人は格付け団体に訴訟を起こしたり、損失を出した投資家に寄付する非営利団体を設立したりと、結構「善」的な行動をとっています。でも、この映画ではあえてこの描写を省き、カタルシスをみせないことに徹底しています。

ちなみに、ジャレッド・ベネットは架空の人物で、モデルはグレッグ・リップマンというドイツ銀行のトレーダーです。プライバシーの都合なのか、あまり映画では顛末も含め、掘り下げることはされてませんでした。ベン・リカートは製作のブラッド・ピットが演じているがゆえに、良い人風に描かれすぎてちょっと残念。

このように基本的に俯瞰したつくりになっている本作ですが、アダム・マッケイ監督の作風ともいえるでしょう。アダム・マッケイ監督は今まで製作してきたコメディ映画でも批評的視点をたびたび挿入してきました。

なので本作も「感情ではなく俯瞰=検証しろ」と私たちに訴えかけているように思います。感情にまかせて表面しか見ないような人は、金融業界にいいように利用されるだけです。

冒頭で紹介した『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』も合わせて見れば、金融関連企業だけでなく、政府、マスメディア、教育組織、学界までもが、歪んだシステムを支持してきたことが生々しくわかります。

ここでそんな彼らを感情的に批判しているだけではダメなのでしょう。

自分も腐ったシステムを支える側になっていないだろうか? もしかしたら自覚していないだけかも、調べてみよう…そう考えないといけない。そう強く感じました。

いつの日か、本作のマイケルやマークのような人間が自分の目の前に現れることが誰にでもありうるのです。