ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
原題:Fantastic Beasts and Where to Find Them
製作国:アメリカ
製作年:2016年
日本公開日:2016年11月23日
監督:デビッド・イェーツ

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 
あらすじ

長旅の末、ニューヨークにたどり着いた魔法使いのニュート・スキャマンダー。ところが道中で彼のトランクが紛失してしまう。実はこのトランクにはたくさんの魔法動物たちが収納されていて、街に逃げ出す事態が発生。さらに、街には闇に魅入られた危険な人物が暗躍していた。

魔法の復活、そしてまだまだ続く

2001年の『ハリー・ポッターと賢者の石』に始まり、2011年の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』で完結した『ハリー・ポッター』シリーズ。ここまで低迷することなく、短期間で8作も続けられるシリーズはなかなかありません。さすが累計発行部数4億5000万部を超えるベストセラー原作なだけはあります。

そんな『ハリー・ポッター』シリーズが今年からさらなる新展開をスタートさせたのが、本作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』。なんと5部作として製作されるとか。すでに2018年11月に続編の全米公開が予定されています。これからまた「ハリー・ポッター」旋風が続きそうです。

本作は、これまでの『ハリー・ポッター』シリーズと大きく様変わりしています。年代は『ハリー・ポッター』シリーズより昔の1926年。舞台もイギリスからアメリカ・ニューヨークに移ります。当然ながらハリー・ポッターたちは登場しません。続編やスピンオフというよりは完全な新章という感じです。でも、ちゃんと本作1作で物語は完結しているので安心してください。 映画の原作はないのですが、題材になっているのは「幻の動物とその生息地」という魔法学校の教科書です。


一番の違いは主人公たちが「大人」だということでしょう。本家『ハリー・ポッター』シリーズは子どもが学校生活を通して成長していく姿を描いていました。一方の本作は最初から大人。それで楽しいのかという懸念がある人もいるかもですが、逆に共感しやすいと思います。本作の主人公たちは、学校を退学して自分の道を進むも社会に溶け込めない人、職場で空回りして上手くいっていない人、今の仕事先に不満を感じて転職を考えている人など、リアルな大人たちです。これは、かつて「ハリー・ポッター」を読んでいた少年少女で今や大人になった世代をターゲットにしているからこその設定だと思われます。

主人公を演じるのはアカデミー賞主演男優賞受賞歴もあり、『リリーのすべて』などで難しい役柄を器用にこなす若きイギリス男子“エディ・レッドメイン”。ヒロインを主演するのは、最近だと『スティーブ・ジョブズ』でスティーブ・ジョブズの元恋人役を演じていた“キャサリン・ウォーターストン”。他にも本作のような大作映画には初の抜擢となるような比較的マイナーな俳優陣も、非常に魅力的な演技を見せてくれます。また、『ロブスター』で奇怪な演技を披露した“コリン・ファレル”などベテラン勢も注目。さらに日本でも大人気のあの大物俳優がサプライズ出演するので、お楽しみに

決して大人しか楽しめない作品ではありませんし、子どももじゅうぶん楽しめます。本作のタイトルにもあるとおり、魔法動物がたくさんでてきて騒動を起こす物語であり、主人公が動物好きなどの共通点から、『ドクター・ドリトル』っぽいドタバタ劇も展開されます。『ハリー・ポッター』シリーズの原作者であり、本作の脚本も手がけたJ・K・ローリングは、大人も子供も楽しめる物語を描くのが上手いとあらためて実感しました。

「ハリー・ポッター」を知らない人にもわかりやすい作りになっているあたりも丁寧です。知っておくとよい前知識としては、この世界では魔法が使える魔法使い&魔女と、魔法が使えない普通の人間である非魔法族(イギリスでは「マグル」、アメリカでは「ノーマジ」と呼ばれる)がいて、魔法使い&魔女は非魔法族に存在が知られないように独自の社会を裏で形成している…という設定くらいでしょうか。

従来からの「ハリー・ポッター」ファンの人は、本家原作小説で語られるだけだった生物や用語が登場するなど、思わず「おっ」となる点も多数ちりばめられていて楽しいはず。なにより「ハリー・ポッター」の世界が帰ってきたというだけでテンションあがると思います。

新鮮な気持ちで観られる万人向けの一作です。





↓ここからネタバレが含まれます↓




J・K・ローリングらしさが広がる世界観

J・K・ローリングの世界観構築力は凄いと感嘆するしかないくらい、本作の世界観も細かいところまで良く出来ていました。舞台は1926年のニューヨークですが、ファンタジーでありながら、しっかり実際のアメリカの史実とリンクさせています。当時のアメリカは、急激な工業化にともなう経済発展に湧く明るい側面の一方で、禁酒法や移民規制など抑圧的な政策による孤立主義といった暗い側面も深まっていました。このあと、世界恐慌と第2次世界大戦が待っているわけですが、本作でもそういう不吉感が常に漂っていました。劇中でもアメリカ合衆国魔法議会のトップの人が「戦争が起こる」と頻繁に口にしてますが、大げさではなく実際起こっているわけですから、史実を知っていると緊迫感が増します。J・K・ローリングが細かい点まで史実を精査してフィクションと上手く絡めて世界観を形作っているのがよくわかります。

本作は普通のハリウッド映画ではやらないような、キャラクター設定がみられるのもJ・K・ローリングならではの魅力でした。

主人公のニュートはとにかく内向的でハッキリ自分の意見を言わないキャラです。実に主人公っぽくない。実際、配給のワーナーから「ニュートをもっと勇敢にヒーローっぽくしたら」と提案されたそうですが、逆に新鮮で良いと思いました。

ティナなんて、まるで本家「ハリー・ポッター」に登場するハーマイオニー(真面目な優等生のヒロイン)に憧れた少女が、大人になって社会に出るも空回りしているような感じで、メタ的に見ても面白いです。

ただ、本作で最も輝いていたのはジェイコブ・コワルスキーでしょう。観る前は、ただのコメディ担当だと思ったのですが、ロマンチックなキスシーンまで用意されているとは。こんな太ったおっさんにロマンス役を担わせるなんて、普通のハリウッド映画は嫌がります。彼の物語は本作でしっかり完結したので今後は登場しないかもですが、それが惜しいくらいのいいキャラでした。演じた“ダン・フォグラー”も見事でした。

本家「ハリー・ポッター」シリーズは、いわゆる選ばれしものが主人公でしたが、本作は特別の力なんて持たない普通の社会人が主人公なので親近感がわきます。J・K・ローリングの庶民目線さがよく表れているのではないでしょうか。
ファンタスティック・ビースト

ジョニー・デップはヴォルデモートになれる?

一方で、ストーリーは悪くはないが特別良くもないというか、ところどころ強引な部分が目立つのが気になりました。「ハリー・ポッター」初心者でも入りやすい導入は上手いのですが、小説の章っぽく話が進むので、各シークエンスのつながりが弱いように感じます。

登場人物の他者との関わりの描写も一歩足りないように感じました。とくに、ティナとクイニーは活躍の場がイマイチな気も。クイニーはかなり切ないキャラのはずなのに、前面に出ずに終わった感じで消化不良。ジェイコブも個のエピソードは良いんですが、活躍はゴキブリ投げたり、殴るだけっていうのもどうだろうか。結果、あの4人にチーム感はあまり感じない。本家『ハリー・ポッター』シリーズにあったあのチームワークには到底敵いません。

シーンも映像の派手さだけが際立っており大味です。本作のデビッド・イェーツ監督の手がけた『ターザン:REBORN』でも同じことを思いましたが、強さの基準が不明なのが致命的。魔法でどこまで解決できるのか終始よくわからないです。ラストの記憶改変の荒業は、あれだけでも強引すぎるという問題がありますが、そもそもあの力自体が悪用されたら危険すぎるのではと思わなくもない…。パーシバル・グレイブス(に変身していたゲラート・グリンデルバルド)も弱くないでしょうか。ジョニー・デップの演技も不安(続編にでるそうなので今後どうくるかわからないけど)。本家『ハリー・ポッター』シリーズの悪役で、レイフ・ファインズが演じたヴォルデモートには圧倒的に負けているので、もうちょっと頑張ってほしい。

いろいろ不満を書きましたが、それでもシリーズの導入作としては上出来だと思います。

今後、どう展開するんでしょうか、楽しみです。

J・K・ローリングいわく日本にも「Mahoutokoro」という魔法学校があるという設定が語られているので、日本を舞台にした作品も期待したいところ。ぜひ、ご検討お願いします。日本にも変な動物たくさんいますよー。

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