The Hunting Ground
Netflixドキュメンタリー『ハンティング・グラウンド』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Hunting Ground
製作国:アメリカ
製作年:2015年
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:カービー・ディック

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★
 

あらすじ

大学合格の知らせに歓喜喝采する若者たち。しかし、彼ら彼女らが目指したアメリカの大学では深刻なレイプが横行していた。大学構内で多発するレイプに対して、頑なに消極的な態度をとる大学と、怒りと苦しみに苛まれる被害者たち。正義のための戦いが始まる。

大学で起こるレイプの闇にせまった問題作

日々のニュースを見ていると、大学生による強姦事件がたびたび話題になります。しかもそれは衝動的な単発事件ではなく、たいていはサークルによる計画された集団暴行事件です。しかし、一時的には取り上げられ、とくにネット上では批判の的になるも、いつのまにか沈静化していることが常ではないでしょうか。加害者の処罰も軽いことが多く、再発防止策なども議論されている気配がありません。被害が続く一方です。

飲酒の強要によるアルコール中毒は日本の大学全体の問題として大きくクローズアップされ、今や必ず新入生には注意が行われるぐらいまでには浸透しましたが、大学でのレイプの扱いは小さいままな気がします。

これはなぜなのでしょうか? 性犯罪だからセンシティブになっているからか、事件の数は少ないと思って重要視していないのか、個人の問題だと考えているのか…。

そんな日本における「大学でのレイプ問題」をあらためて再考させるのにこれ以上にない相応しい映画が本作『ハンティング・グラウンド』。

本作はアメリカの大学で起きている「大学でのレイプ問題」を扱った映画です。

そう、日本と全く同じ問題がアメリカでも起きているのです。違う点は、アメリカでは社会問題として最近議論が進んだということ。政治議題としても取り上げられました。

本作は、アメリカの「大学でのレイプ問題」の実態や原因を明らかにした衝撃作です。近年の似たような作品として、アカデミー賞作品賞を受賞した、神父による性的虐待事件に迫る記者たちを描いたドラマ映画『スポットライト 世紀のスクープ』があります。こちらは記者が主人公ですが、本作の実質的主人公は被害者たちとなっています。実際の被害者が顔も実名を出して、「大学でのレイプ問題」を引き起こす歪んだシステムに挑んでいきます。これだけで賞賛すべき勇敢な行為だと思います。ただ、立ち塞がる敵はあまりにも強大で…。

本作は映画批評サイト「ロッテントマト(RottenTomatoes)」では批評家の93%がポジティブな支持を示しているほど、評価の高いドキュメンタリーです。

また、レディ・ガガが本作のためだけに提供した主題歌であり、米アカデミー歌曲賞にノミネートもされた「Til It Happens To You」も必聴。自身もレイプ被害者であることを告白しているレディ・ガガだからこそ生み出せたこの曲は、曲の重々しさに飾りではない生々しいリアルさを感じます。


私にできることは、この映画を紹介してひとりでも多くの人に観てもらうことぐらいしか、今のところないです。大学に入学した新入生全員に観せるべきだと思いますし、子を持つ親も全員観ないと後悔する一作です。そして当然、大学関係者も。

あなたが、あなたの子どもが、あなたの孫が、次の被害者になるかもしれない…それを忘れずに。

社会に突き刺したいドキュメンタリー映画です。







↓ここからネタバレが含まれます↓





大学は性犯罪者を育てているのか…

本作が一貫して訴えているのは、「通常のレイプ」と「大学でのレイプ」が まるっきり異なるものだということです。

真に警戒すべきは見知らぬ他人ではなく知り合いなのです

映画序盤で挿入されるこの言葉の衝撃。しかし、これが大学におけるレイプの問題の実情でした。レイプというとどうしても通り魔的なものを想像しますが、大学におけるレイプは違う。レイプされた次の日、加害者と被害者が同じ教室で講義を受けている…そんな状況が平然と存在することをあらためて本作で認識させられ、異常なんだと実感できます。

女子大学生の16%以上が在学中に性的暴行を受ける

毎年10万人以上の学生が被害にあうという推定もある大学でのレイプ。被害者は女性だけでなく、男性もいます。嘘の被害報告なのでは?というありがちな指摘に対して本作はしっかりデータで反論していました…“大学でのレイプ報告の虚偽の割合は数%、他の犯罪と同じである”。つまり、数多くのレイプは実在するのです。

大学で性的暴行を受けた女性の88%が報告しない

なぜこんなにも被害が多いのなら世間に知られていないのか? その大きな主因は被害が報告されていないからでした。しかも、加害者が知り合いであるがために報告しづらい…。「大学」という特殊な事情があることがわかります。

2012年には45%の大学が性的暴行は0件と報告

そんななかで勇気をもって報告した被害者には残酷な仕打ちが待っていました。レイプ被害を大学に報告すると信じられない言葉が向けられます。「酒を飲むのが悪い、服装が悪い、誤解させた、それは愛情だ」と責められ、説教される…正気を疑いますが、これが実態であり愕然とします。別に発展途上国の小さな村とかの話じゃない…ここは世界有数の教育を誇る組織のはずですが…。

ここで本作では「大学」という歪んだシステムの実態を暴いています。大学が第一に守るべきは学生ではなく大学そのものであり、大学としてのブランドやビジネスが最重要視されていること。レイプを引き起こす温床となっているフラタニティや大学スポーツ(アメフト)といった存在は、巨額の寄付や利益をもたらすような大学との癒着があるゆえに大学も積極的に対応しないこと。これらの理由で結局、加害者の処分はないか、軽度のモノで済んでいるという状態でした。これは完全に『スポットライト 世紀のスクープ』と一緒です。カトリック教会と同様に、大学も権力を持ちすぎているがために暴走すると手が付けられないということでしょう。宗教組織であろうが学術組織であろうが同じなんですね。

The Hunting Ground

大学の理想の姿を描く

私が本作を評価したい点は主に3つ。

一つ目が、この映画の製作や公開自体が作り手側も辛かっただろうということ。映画の制作に関わっている人だって大学を出た人も多いでしょうし、下手をすれば母校を批判することに手を貸すことになります。でも、映画を作った。これは覚悟が要ります。本作は公開後、大学関係者から批判されたりもしているようですが、私は製作陣だって苦渋の気持ちだったと思います。

二つ目が、被害者を主人公に据えていること。被害者たちが法律を勉強して、情報を集め、ネットワークをつくり、自ら訴え始める…しかも、実名と顔を公表し、被害体験を公で語りだす。ただでさえ辛い思いをしているのに、相当な勇気です。映画は、変に美化することなく被害者たちのあるがままの姿を映しており、真摯な姿勢が伝わってきました。

三つ目が、決して大学を咎めていないということ。こんなテーマなら、大学を安易に悪にしたり、大学を否定したりすることもじゅうぶんありがちです。しかし、本作はそうしていません。なぜなら、大学合格の知らせに歓喜狂乱する若者たちが映されていた映画冒頭です。大学は、これくらい今を生きる希望と将来への展望に満ちた場所なはず。本作が願っているのはそういう大学の姿…それを示していると感じました。

劇中で「大学でのレイプ」問題は、昔から存在し、1970年代にもデモが行われていたことが描かれていました。一方で、今に至るまで進展はありませんでした。ところが本作の公開もあって、アメリカ国内では現在進行形で議論が沸騰しています。映画の力で社会が変わるのは映画好きの私としても感無量です。今度こそ被害者が救われる結末になってほしいものです。

そして議論さえ始まっていない日本も、映画の力で動いたりしないのでしょうか。

@Netflix