ディストラクション・ベイビーズ
原題:ディストラクション・ベイビーズ
製作国:日本 
製作年:2016年
日本公開日:2016年5月21日
監督:真利子哲也

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★
 

あらすじ

愛媛の小さな港町・三津浜の造船所で暮らす泰良と弟の将太。いつもケンカばかりしている泰良は、ある日突然、町から姿を消し、松山の中心街で強そうな相手を見つけてはケンカを売るようになる。さらに、裕也という青年と行動し始めたことで、さらに暴力がエスカレートしていく。


アライグマがやってきた

「あらいぐまラスカル」でおなじみのアライグマ。可愛らしい見た目とは裏腹に実は凶暴な動物であるということは割と有名な話です。原産地の北アメリカでは家に入り込んで食い物を荒らし、ときには飼い猫を殺す(!)ほどだとか。日本ではというとアライグマは外来種として、農作物に被害を与え、もともと日本に暮らしていた動物を捕食したり、生息地や餌を奪ったりして問題視されています。

そんなアライグマをつい連想してしまったのが、本作『ディストラクション・ベイビーズ』です。

本作は表面的に内容を説明するだけなら実に簡単な映画ではないでしょうか。主人公の男がひたすら人間を殴り、締め上げ、叩きつける…暴力につぐ暴力が延々と映し出される作品です。主人公の男は、外の町からやってきた異質な存在であり、まさにアライグマっぽい。主人公の男の暴力の餌食となる罪のない人たちを見ていると、きっとアライグマに蹂躙されるタヌキはこんな気分なんだろうなと同情します

一方で、本作はいわゆるヤンキーや不良が登場する映画とは一線を画しています。これは監督の真利子哲也らしさというか、この監督が普通の不良映画をつくるわけありません。画面に真っ先に飛び込んでくる暴力に目を奪われがちですが、ぜひともその裏にも注目してほしいところ。

といっても、なかなかおすすめしづらい映画であるのも事実。最初はただの喧嘩だったのが、どんどん過激になっていくさまは、ドン引き必須。わかりやすいカタルシスもないし、感情移入も不可能です。

まるで暴力で観客を試すような映画ではないでしょうか。





↓ここからネタバレが含まれます↓




真利子哲也監督のミルグラム実験

私は本作を「暴力を客観視して分析する恐ろしい実験映画」のように思いました。まるでミルグラム実験。真利子哲也監督、マッドサイエンティストです。

今年はサイコパスを描く邦画として『クリーピー 偽りの隣人』や『ヒメアノ~ル』などの評価の高い作品が注目されました。あくまで私の意見ですが、本作はこうしたサイコパスを描く作品ではないと思っています。どちらかといえば『葛城事件』と同様に、日常社会にある普遍的な狂気を描いている気がしました。

それが暗示されるのは映画ラストで映る喧嘩祭りの場面です。「暴力=良くないこと」として世間では扱われがちですが、私たちの社会には大義名分を得て堂々と存在することが許される暴力が実のところたくさんあります。有名どころだと格闘技、あとは昔では教育もそうでした。そして、映画でも描かれる喧嘩祭りです。この認められていた暴力がひとたび“枠”から外れると手が付けられないほど暴走していく…それを極端に表現したのは主人公の芦原泰良という男。彼は決して特別に異常なのではなく、あの暴力性は誰しもが当たり前に持っているのかもしれない。だからこそ、裕也や那奈のような多少悪いところもある程度だった人間でも簡単に触発されて最終的には手を血で汚すのでしょう。

前述したアライグマだって、凶暴と安易にレッテルを貼りがちですが、どんな動物も暴力性を内包しているものです。社会は暴力を飼えるのか?というテーマのようにも感じました。

観終わった後に公式サイトを見たときに今さら気付いたのですが、本作のタイトルの「ディストラクション」はてっきり「destruction=破壊」だと思っていたら、公式サイトのURLは「distraction babies」になってました。「distraction」は「気晴らし」という意味です。あらためて本作は気晴らしの暴力(あの3人)と、管理された暴力(喧嘩祭り、ヤクザ、警察)のぶつかり合いだったんだなと実感です。

ディストラクション・ベイビーズ

まあ、こんな小難しいこと考えなくても、本作は役者陣の名演を見ているだけで大満足できます。

裕也を演じた菅田将暉の、弱い奴にだけギャンギャン吠える犬(こういう小型犬いますよね)みたいな演技は楽しいし、那奈を演じた小松菜奈も新鮮でした。今年の邦画は劇中でレイプされる若手女優が目立ちましたが、今回の小松菜奈はさらに一歩突き進んだのではないでしょうか。終盤で吹っ切れたあとの首絞め、アクセル全開、ドアバンバンは、これぞ逆ギレ!という感じで彼女の個人的ベストアクトです。でも、やっぱり本作一番は泰良を演じた柳楽優弥。暴力演技も文句なしですが、愛らしさもあるのが意外に好きです。ヤクザのリーダー格をついに倒したときの万歳!や、首絞めしたあとの那奈への「どんな感じだった?」の一言など、ところどころで人間味がでるのがいいですね。正直、実験対象にしたくなるのもわかる、観察しがいのある奴でした。

本作の物語や役者を観て、楽しいとか好きとか感じるのは普通の常識だったら違和感は当然ですけど、こういうものへの妙な愛着ってあると思うのです。この映画を楽しめる人は(私も含めて)マッドサイエンティストの素質があるのかもしれません。

(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会