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『コロニア』感想(ネタバレ)…エマ・ワトソンは鼻血で精一杯

コロニア

エマ・ワトソンの決死の主演作だけど…映画『コロニア』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Colonia
製作国:ドイツ・ルクセンブルク・フランス(2015年)
日本公開日:2016年9月17日
監督:フロリアン・ガレンベルガー
恋愛描写

コロニア

ころにあ
コロニア

『コロニア』物語 簡単紹介

1973年、フライトでチリを訪れたドイツのキャビンアテンダントであるレナは恋人ダニエルと楽しく異国で過ごしていた。ところが軍事クーデターが起きてしまい、一気に情勢は悪化。抵抗できずに巻き込まれ、ダニエルは謎の施設「コロニア・ディグニダ」に強制的に送られてしまう。意を決したレナは、危険を覚悟で恋人を助けるためたったひとりで怪しい支配で統制されたコロニアに潜入する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『コロニア』の感想です。

『コロニア』感想(ネタバレなし)

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凄惨な歴史が描かれる…?

今回の紹介する映画は『コロニア』です。

本作のタイトルにもなっている「コロニア」。これはチリに実在した農業集落で、「コロニア・ディグニダ」と呼ばれていました(別名「ビジャ・バビエラ」ともいい、正式名は「尊厳慈善及び教育協会」)。この集落をつくったのはドイツ人移民のグループで、最大300人が生活していたそうです。

しかし、その実態は元ナチス党員のパウル・シェーファーという人物によって支配された閉鎖的なコミューンで、悪魔祓いと称した過剰な暴力や児童への性的虐待が日常的に行われていました。それだけではなく、銃やロケット砲、手榴弾、戦車、毒ガスなど戦争兵器を隠し持ち、人体実験まで実施されていたことが後に明らかになったのです。

当時(1970年代)のチリは、選挙で選ばれたアジェンデ大統領の政権が、アウグスト・ピノチェト将軍らの軍部が起こしたクーデターにより崩壊。社会経済は大混乱に陥ります。そして、反体制派の市民を収容する施設として「コロニア」は活用されることにもなりました。

まさに「コロニア」は、アウシュビッツ強制収容所のような人類の負の歴史を象徴する施設なのです(ちなみに「コロニア」は現在でも運営が続いているらしいです。指導者が変わって閉鎖的な雰囲気は変わったみたいですが)。

私はお恥ずかしながら浅学な人間なので、この「コロニア」の歴史を知りませんでした。

なので、この映画を見れば歴史の勉強にもなるかなと考えたのですが、観た結果は全く思惑どおりにはいきませんでした。はっきりいって本作は歴史を克明に描いた映画ではないです。その理由は本記事下のネタバレで後述しますが、とにかくあまりその点について期待しないほうがいいと断言します。どちらかといえば、負の歴史を材料に、男女のベタなラブストーリー&サスペンスを描くことがメインです。

私の個人的な感想を言わせてもらうと、このいかにもエンタメ的サスペンスが史実を汚しているようにみえて、本作を好きにはなれませんでした。まあ、『サウルの息子』的な作品かと少し期待した私が悪いんですが…。

凄惨な歴史である「コロニア」を題材にしたいうこと以外の本作の特筆すべきポイントも一応あります。それは本作は“エマ・ワトソン”の初の単独主演作ということ。エマ・ワトソンといえば世界的大人気児童文学の映画『ハリーポッター』シリーズでハーマイオニーを演じ、華々しいスクリーンデビューを遂げた日本でも有名な女優です。『ハリーポッター』以降は、『ウォールフラワー』(2012年)や『ブリングリング』(2013年)といった自身と等身大な現代若者を演じていました。

ところが、最近は新境地の開拓がしたいのか、社会派映画への出演が目立ちます。ちなみに本作と同年に公開され、同じくエマ・ワトソンが主演をつとめたスペイン・カナダ合作の『リグレッション』という映画もカルトに関する作品で、何かとカルトばかりのキャリアになってしまっています。

ずいぶんハードな題材の作品に起用された彼女がどういう演技を見せるのか、気になる人も少なくないはず。でも、そんなにハードな描写はないんです(だから問題なんですが)。

とりあえずエマ・ワトソンのファンであれば楽しめるでしょうし、エンタメ作品としては一定の面白さはある映画です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『コロニア』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):愛し合っている場合じゃない

1973年、チリのサンティアゴは国を揺るがすデモで騒然としていました。アメリカはアジェンデ大統領を共産主義者として非難。一方、ソ連は政権を支持します。内戦状態も同然なチリを世界は固唾を飲んで見守っていました。

1機の民間飛行機がサンティアゴの空港に着陸します。ルフトハンザ航空の客室乗務員のレナは街中を移動中に恋人のジャーナリストであるドイツ人のダニエルを見つけ、つかの間の休暇中に一緒に過ごすことにします。ダニエルは反体制の活動に参加していました。

レナはダニエルのここでの家に泊まります。久しぶりの再会を満喫し、2人は愛し合います。

ダニエルに連れられてレナも集会に紛れます。みんなの前に立ったダニエルは「4カ月前に来て以来、チリは僕の母国になった。今こそ団結しよう」と呼びかけ、歓声を受けます。

レナは2日後にこの国を出てしまいますが、ダニエルはまだここにいるようです。ダニエルは家族とも縁が切れています。電話が鳴り、親だと思ってでると、それは危険を知らせるものでした。クーデターが起き、反政府分子を軍が捕まえているというのです。

2人は物々しい空気が漂う街中をひっそりと歩いて逃げようとします。住人はどんどん逮捕されているようです。そのとき、銃声が鳴り、みんなが走って逃げ出します。市民に暴行を加える様子をダニエルはカメラでこっそりと撮影ますが、軍に見つかってしまい、そのままスタジアムまで運ばれます。拘束された人々が全員集められて並べられていました。話は全く通用しません。

スタジアム中央にヘリが着陸。降りてきたのは顔を隠した謎の人物。その人は何人かを指名し、その指差された人は個別に連れ出されます。そしてダニエルも車に連れ込まれ、どこかへ輸送されてしまいました。

レナは釈放されましたが、茫然とするしかできません。なんとかダニエルを見つけなくては…。

その頃、ダニエルは、元ナチ党員パウル・シェーファーが支配する「コロニア・ディグニダ」という施設に収容されていました。ここは暴力と拷問が全て。ダニエルはいきなり電気拷問を受け、地獄の洗礼を受けます。

そしてレナもまたコロニア・ディグニダの情報を入手し、そのカルトのような恐ろしいコミュニティの存在を教えられます。ダニエルを救うには自らそこへ入るしかないか…。

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題材に不釣り合いな美男美女のドラマ

本作『コロニア』はトロント国際映画祭を始め、批評家からは酷評となっています。映画批評家サイト「Rotten Tomatoes」では26%の低評価で、その否定的意見を一部要約抜粋すると「頑張りは認めるが納得はできない」「ロマンスかスリラーかどっちがしたいんだ」「Wikipediaを読む方がマシ」とボロクソ。

私も本作の内容を観るとそういう評価もしょうがないかなと感じます。この賛否両論の原因は、本作に“ロマンスや活劇などのエンタメ”を期待するか、“負の歴史を描く社会派ドラマ”を期待するかの違いなんだと思います。前者の期待は満たす作品です。先にも書いたとおり、エンタメ作品としてはハラハラドキドキするし、一定の面白さはあります。ただ、後者の社会派ドラマはというと…。

映画冒頭の史実映像の導入部分は、これから社会派歴史モノが始まるんだと思わせますが、残念ながらそうはいきません。

序盤のレナとダニエルのくど~いイチャイチャ場面。「彼氏の裸エプロンを撮影する彼女」という映画を見てる側は(少なくとも私は)ゲンナリなシチュエーションはさておき、嫌な予感が漂ってきます。そして、その後の展開…。

結果的に、これは社会派映画ではなく、男女純愛サスペンスになってます。ヤングアダルト系に近いといってもいいくらい。何よりも題材に対してドラマやキャラクターが全く釣り合っていないのが致命的でしょう。

まずキャラクター。

主役のレナは、物語上の位置づけが強引です。例えば、レナがコロニアに来た理由。「愛する恋人に会いたい一心で」という美談にしたいのでしょうが、さすがに何の作戦もなく、コロニアに加わるのは無謀なだけ。レナが来たことでダニエルを救えたという理屈がなく、完全にお荷物になっています。

レナ演じるエマ・ワトソンは、彼女の魅力が逆に作用して、この手の社会派映画にはミスキャスト何じゃないかと思ってしまうくらい今作では浮いてしまってました。劇中ではコロニアに来てから130日以上経過しているにもかかわらず、見た目は変わらず。小奇麗すぎます。

ダニエルについては、知的障がい者のふりをすることで監視の目を欺くという彼のとった行動の不謹慎さはおいておいても、根本的な話として知的障がい者だと思われたら労働力として使えないと判断され生かしておかないのでは?という疑問がわきます。そもそもランダムで選ばれて拉致され、あげくに拷問までされる理由もよくわからないです(人体実験なの?)。ビジュアル面でも難ありで、最初は拷問で顔が変形するくらいの悲惨な状況だったのに、いつのまにか完治しています。

他キャラでも、レナとダニエルに着いて行って脱出したオーセルの無駄死など、ドラマ上これいるの?と首をかしげたくなる場面も多く、残念。オーセルが、ほんと罠除けの駒にすぎなかったのは酷いです。

そしてここが一番大事なことですが、舞台の描写。

史実である以上コロニアの描写は徹底的にリアルであるべきです。しかし、どういうわけか、暴力性をもつカルト的コミュニティのはずのコロニアの描写も薄っぺらい。まず肝心の暴力をちゃんと描かないのはなぜなのでしょうか。最初のダニエルに対する電気拷問は一番暴力性の酷さがよく出ているシーンですが、そこから急激に失速。暴力を見せることを映画が意図的に避けるようになっています。エマ・ワトソンに降りかかる暴力にいたってはビンタされ鼻血を出すくらいです(あと中途半端に服を脱がされていましたが…)。

施設のセキュリティも電気フェンスがあるわりには、トンネルの警備は雑。コロニアが恐ろしく居住者を支配している要塞という感じはしません。史実が軽くみえちゃいます。

いや、もしかしたら『ライフ・イズ・ビューティフル』的な、凄惨な歴史の中にある愛を描きたかったのかもしれないけれど…全然そうはみえませんでした。

全体的にレナとダニエルの二人のラブストーリーをたてすぎて、キャラがご都合的に動いている感じが違和感を覚えました。 史実ではなく作り物感がビンビンに出てしまっています。終盤の飛行機脱出にいたっては、映画のジャンルが完全に行方不明です。『アルゴ』のラストをさらに無理やりにしたみたいになっているのがなんとも…。

そもそも南米の歴史を描くうえで、白人カップルを主役にしないとダメなんですかという根本的な疑問は無視できませんし…。下手したら「白人だから可哀想でしょ?」と同情を煽っているように見えかねないです。

どこまで史実をリアルに描いているかさっぱりわかりませんが、凄惨な史実を汚しかねない映画と言わざるを得ないでしょう。こんなことなら史実を題材にしてほしくなかったと考えるのも無理はないと思うのですが…。

題材の史実の存在を知るきっかけにはなるし、エマ・ワトソン等の俳優ファンであれば楽しめる要素があるのが良かったところですかね。

『コロニア』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 26% Audience 60%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 2/10 ★★

(C)2015 MAJESTIC FILMPRODUKTION GMBH/IRIS PRODUCTIONS S.A./RAT PACK FILMPRODUKTION GMBH/REZO PRODUCTIONS S.A.R.L./FRED FILMS COLONIA LTD.

以上、『コロニア』の感想でした。

Colonia (2015) [Japanese Review] 『コロニア』考察・評価レビュー