ガール・オン・ザ・トレイン
原題:The Girl on the Train
製作国:アメリカ
製作年:2016年
日本公開日:2016年11月18日
監督:テイト・テイラー

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★
 
あらすじ

夫と離婚したレイチェルは、毎朝電車の窓から見える、見ず知らずの夫婦の姿に、別れた夫との幸せだった日々を重ねていた。ところがある朝、電車の窓からレイチェルが見たのは「理想の夫婦」の妻の不倫現場だった。そして、その女性は間もなく死体となって発見され、レイチェルに疑惑の目が向けられてしまう。

女性だからこそ酒に溺れる

かつて“飲んだくれ”といえば「男」のイメージでした。しかし、それはもはや過去の話です。

公的機関の調査によれば、日本では20代の若い女性の飲酒率は男性に匹敵するか上回る勢いまで増加しており、それにともないアルコール依存症となる女性の数も急増しているそうです。

本作はそんなアルコールに溺れて人生をどん底にした女性が、さらなる追い打ちを喰らいながらも自分を見つめ直すお話しです。

ただ、本作はハートフルなドラマではなく基本はミステリー。ある夜、泥酔して次の日の朝に目覚めた主人公はなぜか血だらけ。一体あの晩に何が起こったのかも思い出せないなか、真相に迫っていきます。

このプロットだけ聞くと、『ハングオーバー!』シリーズを思い出します。『ハングオーバー!』シリーズは、バチェラー・パーティー(結婚式前に新郎が独身最後の夜を同性の友人とバカ騒ぎするパーティー)のあとに目を覚ますと新郎が行方不明で他にもメチャクチャなことになっていたので、皆で記憶にない一晩の真相を明らかにしていくというストーリー。お酒あるあるを極端な馬鹿馬鹿しいテンションで描いた痛快コメディでした。


本作には痛快さは全くなく、アルコール以外にも妊娠、子育て、不倫、殺人とまるで昼ドラのような、どんよりした男女の痛々しさが満載の作品。雰囲気は『ゴーン・ガール』(2014年)に近いといえなくもないですが、違う点も多いです。とくに3人の女性の視点で描かれるのが特徴でしょうか。

どうやら評価としては映画よりも原作小説のほうが面白いとか言われてしまったりしているみたいです。原作は舞台がロンドンなのに対し、映画はニューヨークですから、作品の印象自体変わっているのも当然かもしれません。


とりあえず観終わった後は、「お酒はほどほどにしよう」と「不倫はやめよう」の2つの感情が沸き起こることは間違いないでしょう。





↓ここからネタバレが含まれます↓




衝撃の正当防衛

冒頭からヒロインのレイチェルの病みっぷりが尋常ない本作。電車の窓からかつての家と夫を覗き見つつ、お隣の夫婦観察も忘れない。いくら夫に不倫されたショックといえど、もともとかなりのストーカー気質なんでしょうか。『ボーダーライン』で徐々に精神が壊れていくヒロインを演じたエミリー・ブラントですが、本作では前編を通して疲弊が伝わる迫真の演技が全開です。『ボーダーライン』と違って、最後に救われた彼女が見られてなんかほっとしました。

影のヒロインともいえる他の2人の女優陣も出番が少ないながら、良い演技でした。ちなみに、アナを演じた女優は誰だろうと観ているときは思っていたら、『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンだったんですね。全然印象が違ったのでわからなかった…。いい感じの死んだ目してました。
ガール・オン・ザ・トレイン
そんな抑えつけられた感情が煮えたぎる女性陣に対して、映画のストーリーのテンポは非常にゆっくりとしたもので、メリハリはありません。さらに、お話しの語りの視点がコロコロ変わり、時間軸も頻繁に前後するため、登場人物の心情を把握するのは結構大変。とりあえず女性陣は辛い目に遭っていることさえわかればいいのかもしれないですが…。

ミステリーにしては全体的にご都合的なポイントも目立つのも気になりました。とくに、酔ったレイチェルが嘘を吹き込まれ信じてしまうのはどうだろうか…。アルコールでマインドコントロールまがいのことができるなんて、『クリーピー 偽りの隣人』を観たあとだと設定が弱いんじゃないかとつい考えてしまいます。トムは感情的な不倫野郎であって、サイコパスには見えなかったですし。

本作では、男性側(というかだいたいトム)は徹底的な悪で、女性側は悩める善としてはっきり分かれて描かれています。ただ、レイチェルを夫に不倫をされたうえに捨てられてしまった同情すべき存在として、安易に見れないとも正直思いました。さすがにレイチェルの赤子誘拐(未遂?)はやりすぎな気も…。原作ではスコットとレイチェルが不倫関係のような付き合いになるなど、映画よりもドロドロした要素がたっぷりらしく、映画における男女を善悪で分けた明確な描き方は独自のものと考えられます。ここも好みは分かれるところです。

というように、スローすぎるストーリーのテンポと、もろもろのご都合的な側面が気になってしまい、本作は個人的にのりにくいなと思っていました。

ところが、終盤のシーンで個人的評価が急上昇。

横暴なトムにレイチェルの隠れた怒りが炸裂。トムの喉元にコルク栓抜きをぶっ刺すという反撃にでます。しかも、夫の醜さを知ってしまったアナは、そのコルク栓抜きをさらにねじって追い打ち。

宣伝でよく書かれていた「衝撃のラスト」ってそういうことか!

トムのダメな奴っぷりが明らかになったあとは、どうやってこいつに一泡吹かせるのかと思ったのですが…。「そうだ、タイトルどおり列車で轢き殺すんだ!」という私の予想は当たらなかったのは残念だけれども、これもこれで良し。

これが正当防衛になるのかというツッコミは置いておいて、酒とダメ男を断つという意味を込めてのこのシーンだったのかもしれないですが、なかなかない悪趣味的斬新さです。この映画のタイトルも「The Girl on the Train」じゃなくて「Corkscrew」で良かったんじゃないかと思うくらい。

コルク栓抜きで、酒も男も断てるんですね…。
 
(C)Universal Pictures