アイアムアヒーロー
原題:アイアムアヒーロー
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年4月23日
監督:佐藤信介

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★
 
あらすじ

突如「ZQN(ゾキュン)」と呼ばれるゾンビと化した人々によって日常が壊滅する。冴えない漫画家アシスタントの主人公・鈴木英雄は、避難の道中で出会った女子高生の比呂美と、元看護師の藪とともに「ZQN」に立ち向かう。

世界が絶賛する日本のゾンビ映画が誕生

邦画、とくに漫画原作のエンターテイメント系作品はこれまで評判がよろしくない状況が続いており、映画化が発表されるたびに「失敗するに違いない」という失望と嘲笑をもって迎えられてきました。しかし、本作は舐めてはいけません。

本作はすでに世界的に高く評価されています。
  • 第48回シッチェス・カタロニア国際映画祭でコンペティション部門・観客賞と最優秀特殊効果賞。
  • 第36回ポルト国際映画祭でコンペティション部門・観客賞とオリエンタルエキスプレス特別賞。
  • 第34回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でインターナショナル・コンペティション部門・最優秀作品賞(Golden Raven)。
  • SXSW 2016でミッドナイターズ部門・観客賞。
見事制覇した世界三大ファンタスティック映画祭(シッチェス・ポルト・ブリュッセル)は、SFやホラー・スリラー系の映画を対象とする映画祭であり、つまりマニアックなジャンルを好む世界の映画ファンに認められたといってよいでしょう。

この映画はいわゆるゾンビ映画ですが(作中ではゾンビではなく「ZQN」と呼ばれています)、日本のゾンビ映画が珍しいわけではなく、日本でもこれまでいくつかゾンビ映画が製作されてきました。しかし、残念なことにゾンビ映画ファンを納得させる作品がなかなかなかったのも事実です。本筋から逸れる人間ドラマ、アイドル系役者の起用、不必要なお笑い芸人のギャグなど、ゾンビ映画と本質的に関係ない要素を見るたびにがっかりしてきたゾンビ映画ファンは少なくはないでしょう。

本作はこうした過去の日本のゾンビ映画と全く違います。佐藤信介監督を始めとする製作スタッフと役者陣は、直球の王道ゾンビ映画を作り上げました。

まず本作がこんなにも世界で評価された一番の理由は、間違いなく過激なバイオレンス表現です。製作者勢もこだわったのでしょう。とにかく妥協なくグロいです。人の顔がつぶれたり、吹き飛んだりといったゴア演出がてんこ盛りとなっています。こうしたバイオレンス表現はとくに有名俳優を起用するような大衆向けの映画では避けられる傾向にありますが、本作は大泉洋、有村架純、長澤まさみといった人気役者を揃えつつもバイオレンス表現からは一切逃げていません。ジャパニーズホラー的要素もあり、驚かせ演出もベタですが丁寧です。

そして、世界の評価に寄与したであろうもうひとつの良い部分がストーリーのシンプルさ。仕事も恋愛もダメな男が他者を守るために一念発起するというベタな話を、余計な人間ドラマを挟まずにストレートに描いています。こうした普遍的な物語は海外の人にも共感しやすかったと思います。そういう意味では普段ゾンビ映画を見ない人にとっても、親近感を持てるわかりやすいストーリーといえます。初めてのゾンビ映画としても最適です。

本作はR15+指定なので、今後テレビで放映されたとしても一番見ごたえのあるグロいシーンはカットされるでしょう。映画館で見ることをぜひおすすめします。





↓ここからネタバレが含まれます↓




銃が示すもの

ゾンビ映画のなかでも、本作は平凡な主人公がZQNを倒すヒーローになるまでを非常に丁寧に描いた点が他とは違うオリジナリティだと感じました。とくにゾンビ映画に欠かせない“武器”。日本では比較的珍しい猟銃を単なる武器としてだけではなく、主人公の成長を示すキーアイテムとして上手く活かしていました。物語開始当初、ガンロッカーに閉じ込められ全然使われていない猟銃は、まさに閉鎖的な社会のなかで抑圧され上手くいっていない主人公そのものです。主人公が終始、銃刀法を律儀に気にするのも、自分が行動しないための言い訳に過ぎず、結局法律などの社会にしがみついて生きていくしかない弱さを表していてよかったです。銃は使われなければ錆び付くだけですし、悪い奴が手にすれば凶器になります。人も同じです。実際に作中ではダメな男たちが何人か出てきますが、ZQNになっていようがいまいが凶器になっているだけでした。対して、主人公は女子高生の比呂美という守るべき相手と出会ったことで、錆び付いた存在でも凶器でもない他のものになれました。

そんな主人公である鈴木英雄を演じた大泉洋は完璧です。ダメな男なのに嫌味がないギリギリのラインで演じており、前半や後半に登場する他のダメな男たちとの違いがしっかり表れています。大泉洋は他作品でもそうでしたが、ちょっとダメな男を演じさせたら右に出るものはいないですね。

その英雄とダメな男たちとの違いとは「他者を守るために行動する」ということ。他者を守りたいと思っても結局何も行動できずにいる英雄を延々と描くからこそ、この映画の白眉である最初の英雄の発砲シーンは、英雄がヒーローに変わった決定的瞬間として観客のテンションも最高潮に上がります。
アイアムアヒーロー_b
この映画はゾンビ映画でありながらヒーロー映画でもあります。“他者を守るために力をふるって初めてヒーローになる”…喧嘩してたアメリカの2大ヒーローに言い聞かせてやりたいですね…。

本気を出せばここまで作れる

絵作りも完璧です。うち捨てられた車や建造物を始めチープな映像はありません。これは撮影が韓国で行われたからこそ実現できたものだそうです。序盤の派手な見せ場であるタクシーのカーアクション、後半からクライマックスにかけてのアウトレットモールでのシーン、本物の猟銃を使用した撮影も日本では無理でした。また、エンドロールのスタッフクレジットに韓国人の名前がズラッと並んでいることからわかるように、韓国のスタッフが製作に大きく関わっています。本作で特殊効果を担当した韓国の特殊効果会社「デモリッション(Demolition)」は、『セデック・バレ』や『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』にも参加している海外からも信頼されている小規模精鋭集団です。エンターテイメント系の邦画のクオリティをあげるには、こうした海外のプロフェッショナルと積極的に関わることが重要なのだと実感させられます。
アイアムアヒーロー_a

さらに上を目指して

良くできた作品だからこそ惜しい部分も目につきました。

女子高生の比呂美に関しては後半は活きてこないのはややもったいない…これは原作の問題もあるでしょうし、改変するのは厳しかったのかもしれません。ただ、比呂美の身なりがサバイバル状態にもかかわらず常に綺麗すぎる(汚れない)のは気になります(なんか汚しちゃいけない決まりでもあるのでしょうか?)。それでも『フィフス・ウェイブ』よりはサバイバル感が出てましたが。

一番残念に思ったのはクライマックスの鈴木英雄の大活躍シーン。英雄が初めて猟銃を撃つ場面は最高に盛り上がるのですが、以降の銃撃はワンパターンになっており、いつ終わるのだろうと展開にやや飽きてしまいました。色々なZQNが襲撃してくるにも関わらず、基本的に撃って吹き飛ばすだけなので、盛り上がりに欠けます。弾数に限りがあるのですから、もっと天井を落として侵入口を塞ぐとか、戦術が欲しかったところ。そもそも、あのアウトレットモールにはかなりの数のZQNがいたように見えたので、ただ迎え撃つ以外の展開がなければZQNを切り抜けられないはずです。そこらへんが英雄の活躍で誤魔化されてうやむやでした。また、この場面のBGMもこれまでZQNに襲われたときと曲調が同じなのでメリハリがなかったなと。せっかく館内放送で音楽をかけられるというシチュエーションなのだから、比呂美の好きな曲をバックに無音で戦うとか、iPodイヤホンを比呂美につけて比呂美視点で英雄が戦う場面を見るといったような印象的なシーンを挟んでテンポを変えても良かったなと思ってしまいます。この点においては、先行するハリウッド映画はバイオレンスと音楽の合わせ方が非常に巧みな作品が多く、今後見習いたいところです。

邦画はまだまだ成長できる!と期待を高められる一作でした。